降ってきた雨は次第に大粒の雨となり、坂口は本社ビルのロビーから外の様子を見つめる。一階ロビーは四方が全面ガラス張りだから見通しが良く、かえって坂口の憂鬱さを煽った。
コンクリートの窪みには所々水たまりがあるから、スーツに水が跳ねそうだ。一人暮らしで平日は換気や手入れがマメにできないから、どうしても汚したスーツはクリーニング屋行きになる。コスト面で文句を言う気はなくて、貴重な休日の朝、競うように並びに行くのが面倒なだけ。しかも大体が雨に降られながらの待機になる億劫さ。
「はぁ・・・。」
溜息をつきながら宇津井を待っていると、通りの向こう側に彼の姿を見つける。信号待ちをしているようで、すぐ隣りには瀬戸の姿があった。
「一緒に出てたのか・・・。」
宇津井が傘を持ち、二人で相合傘をしている。宇津井に嫉妬するのはお門違いだが、些細な事に羨ましさをおぼえるのが恋だ。
横断歩道側の信号が青に変わり、二人が近付いてくる。瀬戸も宇津井も坂口の視線には気付いていない。彼らが気付く前に視線を外そうと何度も自分に言い聞かせたが、結局できないまま二人の姿を目で追い続ける。この必死さを笑えないのは、それなりにこの想いが深刻だから。忘れることも進むこともできずに八方塞がりだ。
宇津井の視線をどうにか瀬戸から離したくて、宇津井が顔をこちらへ向けた瞬間、すかさず手を上げて注意を引く。宇津井がすぐに気付いて、坂口に応えて傘を持った手を上げてきた。しかし傾いた傘からは溜まった水が流れ落ちて、よりにもよって瀬戸の肩を派手に濡らす。
ガラス越しに宇津井が慌てている。一方の瀬戸はいつもと変わらず無表情のまま、微かに首を横へ振って、大人しくハンカチで拭われている。瀬戸と宇津井の距離が近い。坂口の中でかえって燻る気持ちが増して、それは昇華されないまま心に蓄積されていく。
そんな気安く触るなよと坂口が宇津井に言う資格はない。でもその言葉は坂口の喉元まで這い上がってきて、留まり続けた。
「悪い、坂口。待った?」
「いや、大丈夫。瀬戸。肩、平気?」
「大丈夫です。」
遠目で見ていた以上に広範囲で濡れている。
「企画フロアのトイレにドライヤー置いてあるから使うといいよ。それじゃ、冷たいだろ?」
「そっち、そんなもん置いてあんの?」
「うちのヘアケア製品とコラボしてるやつ。な、瀬戸?」
「はい。」
瀬戸にとって坂口の意地は何の意味ももたらさないだろうけど、せめて宇津井より気の遣える先輩だと思われたい。共有しているものがあるなら誇示したい。本当にくだらないプライド。
しかし至極納得したように頷いて応えた瀬戸の態度に、坂口は十分満足したのだった。
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