近付いてくる坂口の顔。唇がふわりと触れ合って焦りをおぼえたが、慌てて起き上がったら、目の前に坂口はいなかった。呆然と壁を見つめ、何故こんな夢を見るのか自分でもわからず、それでも頬が熱くなっていくのを止められない。
「なんで・・・。」
誰かに触れられることすら抵抗があるはずなのに、いつもと勝手が違う。触れた唇の熱さや感触を生々しく脳が再現するものだから、身体中がざわついて落ち着かなかった。知るはずもない彼の唇を知っているような気がして。瀬戸は坂口の顔を思い浮かべて首を振る。
「こんなの、変・・・。」
深く関わるのは怖いと思いながら、坂口が詰めてくる距離を嫌だと感じない。むしろ心地いいとさえ感じた自分。欲求不満だとしか思えない現象にも、瀬戸の中で戸惑いが渦巻く。
今までにないほど坂口を意識している。苦手だと思うことも、好感を抱くことも、裏を返せば意識している証。その考えはひどく説得力のあるものだった。
「瀬戸、起きた?」
坂口の部屋だから当然彼がどこかに潜伏していることはわかっていたけれど、彼の呼びかけに瀬戸は肩を震わせる。
「さ、かぐち、さん・・・。」
「具合どう?」
「・・・大丈夫、です。」
「良かった。一人で帰れそう?」
「はい・・・。ご迷惑お掛けしました。」
「そんなことないよ。中途半端な時間だけど、飯食べてく?」
「あ、はい・・・。」
戸惑いと猛烈な恥ずかしさに負けて、坂口から目を逸らすために俯く流れで頷いてしまう。しかし胃は本調子とは程遠く、頷いてしまったことを後悔した。
「服、乾いたよ。テーブルの上のソレな。」
「・・・はい。ありがとうございます。」
丁寧に畳まれた洗濯物を見て、坂口の几帳面さを知る。広げたシャツにはアイロンまでかけられていて、洗剤のスッとした香りが鼻を通った。
キッチンへ姿を消す坂口の背中をつい目で追い掛ける。すると顔が熱くなっていき、耳に届くほど心臓が煩く鳴った。
「やっぱり、変・・・。」
着替えもせず、ソファの上で体育座りをして、湧き上がってくる得体の知れないものを堪える。
「瀬戸?」
「あ・・・。」
「もしかして、まだ具合悪い?」
フライパン返しを手にして現れた坂口が、いつまでも蹲っている瀬戸を不審に思ったらしく声を掛けてくる。瀬戸は狼狽えながらも坂口に慌てて首を振り、洗濯物を再び手に取る。小さく頷いて微笑んできた坂口の顔に胸が苦しくなって、キッチンへ引き返した彼を見送って大きく溜息をついた。
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朝霧とおる