飲み過ぎて、寝落ちしてしまったらしい。自宅ではない見覚えのあるソファに横たわって、そこから見上げると視界に坂口が飛び込んでくる。
「さか、ぐ、ち、さん・・・?」
昨夜同じテーブルで飲み、そのまま坂口の部屋へ連れてこられたことまで思い出す。
「坂口、さん、すみませッ・・・」
「瀬戸!」
起き上がろうとして、額の奥に鋭い痛みが走る。衝撃でよろけて、咄嗟に手を貸してくれた坂口に受け止めてもらう。
「ッ、すみません・・・。」
「二日酔いか?」
「そう、みたい、です・・・。」
「無理しなくていいから。嫌じゃなきゃ、ゆっくりしてけ。」
「・・・。」
リビングの端では瀬戸の服がぶら下がっている。思い返せば、昨夜は雨が酷かった。下着姿でタオルケットにくるまれている自分を確認して、申し訳なさが募った。皆が彼のことを優しく気の回る人だと褒める理由が今ならわかる。今まさに身をもって実感していた。
しかし苦笑いをして立ち上がった坂口の様子はどこかぎこちない。疲れを滲ませた顔も気に掛かる。泊まり込みで仕事をした、徹夜明けの冴えない面立ちに似ていた。もしかして記憶にないだけで、何か迷惑を掛けたのかもしれないと思い至り、心配になって姿を消した坂口を探す。
「坂口さん・・・。」
不安な声音で呼ぶと、すぐにどうしたかと尋ねながら坂口が顔を現す。手に水の入ったカップを持っていた。
「水分抜けてるだろうから、ほら。」
「ありがとう、ございます・・・。」
「どうした?」
「昨日・・・」
坂口が息を呑んだような気がしたのは見間違いだろうか。彼の様子を見定めようと視線をやると、坂口の顔には緊張が走って、逸らさないにしろ、彼の目は泳いだ。
「俺、あんまり、憶えてなくて・・・。何かご迷惑お掛けしたかもって・・・。」
「あ、あぁ・・・大丈夫。ここで寝ちゃった、ってだけで・・・。俺こそたくさん飲ませて悪かった。」
「坂口さん、何も悪くないですよ。俺が・・・勝手に調子乗って、飲み過ぎただけなんで・・・。」
困惑が滲んだ苦い顔。坂口が何故そんな顔をするのかわからなくて、瀬戸は内心首を傾げた。
「瀬戸。あのさ・・・あ、朝ご飯、どうする?」
多分、何かを言いかけて、坂口は呑み込んだと思う。何事もなかったように坂口が微笑んで尋ねてくることに違和感をおぼえながらも、頭痛に屈して追及することは叶わない。
「頭、痛くて・・・ムリそうです。」
「そっか。落ち着くまで、ここ居ていいから。」
「でも・・・。」
会社を休むわけにはいかないと起き上がりかけて、今日が休日だということを今さら思い出す。時計の針はすでに十時過ぎを指していて、出勤日だとしても始業には間に合わなかったなと自嘲した。
「坂口さん」
「うん?」
「昼まで、お言葉に甘えてもいいですか?」
「痛み治まるまでいろって。」
「・・・はい。」
坂口の優しさが心地いい。昨日も坂口の陽気な声に同じことを思った。もう少しだけここにいたい。受け取った水を飲み干し、重い身体に鞭を打って手洗いだけ済ませる。再び横になると、すぐに睡魔が迎えにやってきた。
「瀬戸。俺、あっちの寝室にいるから、帰る時は起こして。」
「はい・・・。」
眠気まなこで坂口の声に頷き、瀬戸は間もなく意識を手放した。
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朝霧とおる