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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

この雨が通り過ぎるまでに14

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この雨が通り過ぎるまでに14

兄弟がいるかどうかとか、どんな趣味があるのだとか、坂口に尋ねられるまで、プライベートな情報を誰かと共有してみたいという願望が自分には今までなかったということに気付く。

気まずさに悩まされるとばかり思っていたけれど、坂口の話はアルコールの浮遊感と馴染んで、瀬戸を息苦しさで縛ることはなかった。

「瀬戸が一人っ子なのは納得。誰かと競ったりするの苦手だろ?」

坂口の言う通りなので黙って頷く。

「俺は上が二人いたから、飯の時間、闘ってばっかだったよ。瀬戸、ほらタン塩。」

「・・・ありがとう、ございます。」

網に並んだお肉を見つめていたのがバレていたらしい。少々恥ずかしかったけれど、段取り良く焼いていく坂口に任せて、皿の上に置いてもらったお肉を冷めないうちに箸で摘まんで口へ運ぶ。

「瀬戸ってさ、意外に食べるし飲むんだな。」

「・・・。」

何故、坂口は嬉しそうなんだろう。素晴らしいものでも発見したように喜ぶ坂口を見て、ただ不思議に思った。

川辺をはじめ、第一陣が帰宅して以降、坂口の上機嫌さは増している気がする。隅のテーブルには、坂口と二人きり。他の面々は別のテーブルでお喋りに興じていた。

坂口はビールが進んでいる所為もあるかもしれないが、楽しそうだし饒舌だ。大した返事もできていないのに彼が熱心に話し掛けてくれるから、悪い気はしなかった。自分には珍しく、人の話に耳を傾けることが苦痛ではない。

ラジオのスピーカーから流れてくる声と少し似ているのだ。瀬戸が関心を持とうと、そうでなかろうと、坂口のハイトーンな声音は変わらない。反応を示せば、メールで便りを貰ったラジオパーソナリティのように盛り上がりを見せる。彼は破顔することはあっても、話題を失くして言葉に詰まることはない。

苦手だったけど、少し想像とは違う人だった。坂口の器用さについていけないと委縮していた気持ちが前より薄らいでいることに気付く。いつの間にか緊張は解けていたし、坂口の話を聞いていると、自分が聞き上手になれた気がして心地いい。新入社員の子とは結局一度も話すことなく終わってしまったけど、会がお開きになることが残念で仕方なかった。

「ッ! 瀬戸、大丈夫か?」

立ち上がった瞬間に訪れた眩暈に、調子に乗って飲み過ぎたことを実感する。

「大丈夫、です。」

「なんなら、泊まってく?」

もう少し一緒にいたいと思う気持ちで頷きかけて、泊まった晩に坂口が耽っていた行為が脳裏に浮かんで頭が一瞬で沸き立つ。アルコールではない何かが瀬戸の顔を熱くさせて、余計に足元はおぼつかなくなった。

「ッと。瀬戸、泊まってけ。別に二回飯行こうとか言わないから。」

「でも・・・。」

こんなに気持ち良くお酒が進んだ経験はなくて、自分の限界値を知らなった。地に足がついていないようで無事に帰ることができるか大変不安だったが、坂口を妙な目で見てしまう自分にも戸惑う。

しかし心配そうに顔を覗き込んできた数人に坂口との帰宅を勧められて、彼の申し出を無碍にすることもできなかった。

「瀬戸、行こう。」

「・・・はい。すみません。」

「謝ることないって。俺が飲ませ過ぎちゃったな。」

「・・・。」

支えてくれる坂口の手が心強い。並んで店を出て、坂口が大きな傘を二人の頭上で開いた時、来た時より雨が酷くなっていることに初めて気付く。

地面を叩きつけていく雨粒は音も大きかっただろう。しかし店内の喧騒とアルコールの濃さが、瀬戸の耳から雨音を遠ざけていたらしい。

「雨・・・。」

「凄いな。傘差しても、あんまり意味ないかもな。」

「はい・・・。」

「行こう。」

身体が火照っていたから、雨が生温く感じる。襲ってきた眠気に思考回路を奪われて、肌に纏わりつく服の煩わしさも、大して気にならなかった。









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