生憎の空模様。少々時期を逸した新入生歓迎会は、土砂降りの雨で皆に溜息をつかせた。多分浮かれているのは自分だけだ。メールアドレスを交換したきり瀬戸からは音沙汰がないけれど、今日は隣りに座る約束をした。
中学生より目標が低いと宇津井に言わしめた恋だから、プライドもあったものではない。瀬戸と話して、少しくらい笑顔が見られたらいい。
抱える仕事量を考えれば、定時を過ぎたばかりの今、瀬戸が席を立つことはないだろうと、様子を見に二課のフロアへと赴く。しかし予想に反して川辺と二人、席を立ってジャケットを羽織っていたところだったので、今日の運気はなかなか良好だ。
「二人とも、上がり?」
「はい。」
「お疲れ様です。坂口さんも、今から店向かいます?」
「うん。今仕事上がったとこ。三人で一緒に行こうよ。」
「はい。」
微笑んで返事を寄越してきたのは川辺で、瀬戸は一歩引いたところから小さく頷いてくる。相変わらず瀬戸の築いた壁は高いなと内心苦笑しながら、そんなところが彼らしくて、つい手を伸ばして構いたくなる要因だと分析している。坂口にとってはまさにツボなのだ。
遠慮なく二課のフロアへ踏み込んで、瀬戸のそばへ立つ。瀬戸は感情を見せない眼差しをこちらへ注ぎ続けて、横へ並んだ坂口をジッと見上げてきた。
「二人とも、進行具合はどう?」
課を跨いでいても二人に仕事を割り振ることのある坂口にとって、この手の話は至って無難だ。瀬戸と川辺を困らせることはないだろうし、なにより瀬戸に警戒されなくて済む。
「俺の方は、落ち着いてます。」
「そう? 良かった。川辺は?」
「製品リニューアルの方がちょっとバタバタで・・・。」
「ハンドクリームですか?」
「うん。」
「単発のものとか、手伝いましょうか?」
「ホント? じゃあ少し振ってもいい?」
「はい。」
坂口が相槌を打つより前に瀬戸が口を開いたので、川辺に対しては無口ではないのだと知る。親近感という意味では、どうやら自分は川辺に負けているらしい。坂口に見せる顔より肩の力は抜けているような印象だし、何より話のテンポが良かった。
仕方ない。入社以来、川辺はずっと瀬戸の隣席なのだ。打ちひしがれて落ちていく気分を止めることは容易ではない。
「坂口さん。川辺さんの単発もの、週明けから俺に振ってください。」
「あぁ、うん。一課の案件は割り振り考え直しておくよ。朝十時までには進行表送っておくから、引き継ぎは任せていい?」
「はい。」
「助かります。」
瀬戸に任せる仕事が増えれば必然と接点が増える。川辺を思っての機転だから、優しさのベクトルが坂口に向いているわけではないが、関わる時間が多くなることを幸運だと思うことにした。
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朝霧とおる