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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

この雨が通り過ぎるまでに12

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この雨が通り過ぎるまでに12

奇妙なことになった。坂口と食事を共にしたところで何一つ面白い事なんて言えない。それは以前、坂口に宣言した通り訂正するつもりはない。楽しい時間にならない、ある種の自信さえある。

しかし坂口があまりに真剣な眼差しで誘ってくるので、彼の勢いに流されるままに頷いた。跳ね返すエネルギーが自分になかったとも言える。新しい下着を買って返すにも坂口から断られた。彼がご飯で手を打ってくれるというなら、あれこれと対人能力に欠ける自分が知恵を絞るより、誘いに乗った方が賢明だ。考えないラクさに負けただけかもしれないけれど。

「坂口さんと何かあったの?」

「お世話になって。」

川辺が首を傾げたので、あまりに曖昧な言葉だったと訂正する。昨夜ずぶ濡れで歩いていたところ坂口と宇津井に捕まって、流れで坂口の家に泊めてもらった事を説明したら、川辺が驚いたように笑う。

「俺だったら、先輩に泊まってけなんて言われたら・・・どうしよう、って焦るかも。でも、そうか・・・だからお礼、ね。」

「はい。」

「だけど、落ち着かないだろ?」

今度は瀬戸が首を傾げる番だった。

「坂口さん、優しいけどさ。さすがに先輩だと緊張して寝心地悪い気がするし。瀬戸はそういうの、大丈夫な方?」

確かに少々気まずいことはあったけど。案外ぐっすり寝てしまった自分を思い返し、暫し考え込む。

「全然、悪い意味じゃななくて・・・。瀬戸って繊細そうなのに、そういうところ、ちょっと意外だよね。結構どこでも寝れちゃう? そういえば終電なくなって、休憩室の椅子で寝てたことあるもんね。」

「・・・。」

寝ることが唯一自分にとって心を解放できる時間だ。あらゆる人から向けられる視線の意味を考える必要がない。天井が高かったり、部屋が広ければ落ち着かないこともあるかもしれないが、寝る場所について深く悩んだことはない。意識を手放すことが許されるなら、別にどこでも構わなかった。

「・・・気にした事、ありません。」

結局、川辺に首を横へ振って答える。

「昨日と着てる服が同じだったから、違う事考えてたんだけど・・・そっか。風邪引かなくて良かったね。今、瀬戸が倒れたら、仕事回らなくなるから困る。」

仕事量を鑑みれば川辺の言う通りだと思って素直に頷く。しかし川辺が困った顔で笑い、肩を叩くので、意味が分からず目を瞬かせる。

「でも、ホントに具合悪かったら、ちゃんと言って?」

「・・・はい。」

真面目だな、と言って川辺が笑う意味はよくわからなかったけれど、モニターに顔を向けてマウスを握ったら、抱いた疑問は跡形もなく消えてしまった。









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