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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

恋を結う日々37

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恋を結う日々37

結局飯塚と付き合ったところで、自分は恋に振り回される運命なのかもしれない。けれど持ったハサミの手応えが狂うことはなかったし、家までの道を軽快に歩いて帰った現金な自分に嘘をつくことはできなかった。

飯塚の顔を見られるだけで嬉しい。紛れもないこの気持ちがふわふわと浮上しては、大友の身体を軽くしていく。家に帰り、シャワーを浴びても、心が落ち着くことはない。しかし昼に入った飯塚からのメッセージには、夜遅くなる旨が記されていた。電話をしても仕事の邪魔になることは明らかだ。

「声、聴きたい・・・。」

突然現れたりするから、冷静でいようと努める心とは裏腹に、身体は勝手に会えることを期待している。触れられたいと強烈に肌がざわめき立ってからは、大人しく毛布にくるまれていることができなくなった。

「会いたい・・・。」

捨て置かれることが当たり前で、一人の時間に長く耐えることは得意な方だと思っていたのに。駿に甘えん坊だと称されて完全には納得できていなかった自分を、ついに認めなければいけないと思う。

迷惑だってわかっていたけれど、スマホを取り出して、会いたいと一言メッセージを送る。思いのほか早く既読になったメッセージに心臓が跳ねて、今から行くよと返してきた飯塚の優しさに胸が震えた。

続けざまに、どうしたの、とメッセージを寄越してきたので、急に申し訳ない気分になる。普段大友から直接的で切迫した言葉を送ることなんてないから、心配させたかもしれない。大友は返信できないまま落ち着かない気分でベッドに身を起こし、飯塚の番号を画面に呼び出して発信ボタンを押す。

ワンコールも待たなかった。すぐに話し始めた飯塚の声は、電車の轟音に掻き消されて、ところどころ声が途切れてよく聞こえない。

「もう・・・ぐ・・・く、よ。」

「飯塚、ゴメン。やっぱり来なくて大丈夫だから・・・。」

「・・・んな、わけ・・・か、ない・・・。」

落ち着いた話しぶりから、こちらの声は届いていることがわかる。しかし飯塚の声を全て拾う事は叶わなくて、そうこうしているうちに通話は切れてしまった。

暫く呆然とスマホの暗転した画面を見つめていたが、もうすぐ着くという言葉だけは耳に届いていた。少し散らばった床を見て、彼を迎える準備をしようと、大友は我に返って慌てて部屋の片づけを始めた。


 * * *


散乱していた雑誌を本棚へ戻し終える前に、インターフォンが鳴る。諦めて本の束を部屋の隅に積んで玄関へ向かい、ドアスコープの向こう側に飯塚の姿を見つけて深呼吸をする。自分から会いたいと呼び出したくせに緊張するなんて。大友の言葉を律儀に叶えてくれる飯塚の優しさを思うと胸が熱くなるのを止められなかった。

鍵を回すと妙に音が大きく響いたように感じて、大友の緊張を余計に煽る。

「お疲れ。」

「う、ん・・・お疲れ・・・。」

「あれ、寝るとこだった?」

パジャマ姿の大友を見つめて、飯塚が気遣うように尋ねてくる。

「いや・・・そんな事、ない・・・。」

「そう?」

「うん・・・。」

昼間、アリスで見かけた姿と同じだった。夜なのにくたびれた様子は微塵もなくて、スッと背筋の伸びた立ち姿に惚れ直す。しかし微笑む顔は昼に見た時より幾分柔らかく、大友にだけ見せる顔。飯塚の頭はすっかり恋人仕様に切り替わっているのだろう。

「会うの、週末にしようと思ってたんだけどさ。」

「・・・。」

「大友が会いたいなんて言ってくれること滅多にないから嬉しくて。」

「ッ・・・。」

部屋に上がり込む流れで、至って自然に大友の唇を攫っていく。

「仕事中、ビックリした?」

「急に来るとか、反則・・・。」

「ゴメン、怒らないでよ。俺も急遽、代役だったんだ。」

俯きながら口を尖らせて抗議している自分に苦い思いが走る。会いたかったんだから、素直に甘えればいいのに、そうできない自分にガッカリしてしまう。飯塚はこんな自分に幻滅していないだろうか。しかし些細な事で飯塚が逐一目くじらを立てるような性格ではないことを、大友は心のどこかでいつも確信しながら口先だけの抗議を繰り返している。

「ッ!」

飯塚の手が伸びてきて、抗う隙もなく腕の中へ収められる。上質なコートの生地に頬を包まれて、突っぱねようとする天邪鬼な部分を削がれていく。

「泊まってもいい?」

「今さら過ぎるし・・・。」

泊まる気満々なくせに、念を押すように尋ねて言質を取るのは飯塚らしいやり方だ。腕の中でそっぽを向いたまま、大友は可愛くない自分の唇を戒めるように噛んだ。









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