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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

恋を結う日々35

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恋を結う日々35

朝礼に耳を傾けていると、同僚一人の欠勤が報じられる。インフルエンザらしい。正月明け早々、気の毒なことだ。欠員の仕事をいくつか引き受けた飯塚は、自分の営業リストに仕事を書き加えて、パズルを嵌めていくようにスケジュールを練り直していく。

「飯塚。繰り上げ返済の二件は、客先に連絡入れさしたから。」

「わかりました。助かります。」

課長に手を挙げて礼を言い、引き継いだ店舗の書類に目を通し始める。

担当でない行員が突然変更を申し出て訪ねると不審がられてしまう。入金出金の手続きを交わす時は特に、可能な限り担当営業本人が直接客先に交代の連絡を入れるようにしている。

インフルエンザの身体に鞭を打って連絡を入れておいてくれたのだろう。営業前に連絡を済ませてくれたのは幸いだ。飯塚としても今日一日の予定が組みやすくなる。

「花屋と美容院か・・・。」

自営業は相手によって時間が読めない。お喋り好きのご年配が担当者だとお茶を出されたら最後。上手に交わせないと、相当な時間を拘束される羽目になる。どちらの店舗も登録者名は若手経営者だ。スムーズに終えられることを祈るしかない。

「担当者の特徴くらい書いておいてくれればなぁ・・・。」

「こっちも情報ゼロ。」

情報が多過ぎても精査するのに時間が掛かるが、何もないのも考えものだ。こればかりは担当者のマメさで偏りが出る。仕事を分け合った同僚たちと顔を見合わせて苦笑し、飯塚は必要書類を揃えるために席を立った。


 * * *


「では香月さま、こちら確かにお預かり致します。手続きが完了次第、私の方からもご連絡は差し上げますが、井田が出勤しましたら、改めて本人からご連絡させていただきます。」

「わかりました。よろしくお願いします。バタバタ、落ち着かなくてすみません。」

「いえ、こちらこそ。お忙しい中、ありがとうございました。」

一件目の返済業務は、応対してくれた店主が世間話をほとんど絡めてこなかったので、あっという間に終わってしまった。客入りもそこそこあって、すぐに済ませたかったのが本音だろう。

さっぱりした顔の好青年で、花に似合う朗らかな印象だ。首から下げたチェーンにはシンプルな指輪が通されている。結婚指輪に見えるが、花屋は年中水を扱う仕事だから、手に嵌めるのは煩わしいのかもしれない。

「それでは、失礼します。」

「はい。お気を付けて。」

こちらのお辞儀に花屋の店主も頭を下げてくる。飯塚はもう一度軽く会釈をして、その場を離れた。

「指輪か・・・。」

花屋の店主がさりげなく身に着けていた指輪を見ていたら、大友にも何らかの形で自分と揃いの物を付けてほしくなった。あからさまな物は嫌がられるかもしれないが、今度それとなく聞いてみよう。

指輪そのものにはさほど興味はないけれど、大友が望んでくれるなら喜んで渡したい。首から下げた指輪を見つめて、大友が恋人の自分に思いを馳せてくれるところまで想像したら、居ても立ってもいられなくなった。もう全力疾走で売り場へ直行したい。

「絶対、定時で上がってやる。」

先走る妄想を膨らませて、飯塚は次の客先である美容院へと向かった。











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