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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

恋を結う日々31

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恋を結う日々31

夜の玄関に疲れた顔をして現れた大友を、黙って部屋へ引き入れて座らせる。

「コーヒーでいい?」

「うん・・・。」

「・・・。」

大友はコーヒーを飲まない。飲むと頭痛がすると言っていた。飯塚の言葉に機械的に頷いただけなんだろう。心ここにあらずな大友に苦笑して、飯塚はキッチンへは向かわず、大友のそばに腰を下ろす。

「引っ越しの準備、大変?」

「だいたい、終わった・・・かな。」

「そう。」

「ッ・・・。」

肩に抱き寄せて、覗き込んだ唇にキスをする。

一人で片付けなんてさせるんじゃなかった。無理にでも押し掛けて手伝ってやれば良かった。このくらい呆然とするくらいには、まだ失恋の痛手が大友の中に燻っているということだろうから。

「大友」

「・・・。」

「苦しいなら、苦しい、って教えて。」

「大丈夫、だよ・・・。」

「大丈夫っていう顔じゃない。」

見上げてくる瞳が困惑で揺れたので、何も言わせまいと大友の唇を塞ぐ。無理に吐かせて、逆に大友を傷付けさせたらいけない。自分の放った言葉で自身を傷付けることは往々にある。

飯塚自身は長く誰かを愛するということは経験がない。だからその深手を同じ温度でわかってやることはできない。抱き締めることが正解かはわからないけれど、大友が腕の中でホッとした顔をしたので、腕の力を強める。

「大丈夫、っていうか・・・大丈夫になってきたから・・・。コーヒーはいらない。」

「・・・うん。そうだよね。」

「試すとかムカつく。」

口を尖らせて抗議してくる大友に苦笑して、根気よく唇を重ねる。すると深くなっていったキスに大友の舌が絡みついてきて、応じるくらいの元気さはあるのだと安堵した。

「飯塚のこと好きなのに。」

「うん。」

「疑われてる気がして、腹立つ。」

「疑ってないよ。心配してるだけ。平気なフリしてほしくない。」

泣きたかったら泣けばいいし、叫びたいならそうすればいい。でも大人になると、できないことが増えていく。まだ立てると自分に暗示をかけて、身も心もボロボロになるまで気付けない。大友は一人で抱え込むことに慣れ過ぎている。頼りにしてもらえないなら、恋人であるということに何の意味があるだろう。

「大友。頼って、甘えて。」

「・・・甘えてる。」

「まだまだ足りないよ。」

二人分の身体をソファへ横たえて、組み敷いた大友に微笑んで口付ける。染まった頬にも唇を寄せて首筋へと降りていくと、大友がくすぐったそうに身を捩った。

「ベッドがいい?」

「・・・ここでいい。」

飯塚の背に大友の腕が回る。気の利いた言葉や慰め方をくどくど考えるより、触れ合って安心できることもある。交わりたい欲求が二人にあるなら、抱き合う理由はそれで十分だ。

長い恋の終わりに、傷心だけが大友の心に残らないといいんだけど。

「大友がつらい思いするのは、今日で終わり。」

「・・・うん。」

これ以上、大友が悲しまずに済むように、呪文をかけるように耳元で囁く。

「俺の前で我慢しないって、約束して。」

「うん。」

「絶対だよ?」

「ん・・・。」

嬉しそうに笑ったそばから、大友の目尻に涙が浮かんでこぼれていく。飯塚は涙を指ですくい取って、宥めるように口付けをした。









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