大友を玄関で見送った日の夜、飯塚はスマホの画面におやすみとだけ打ち込んでメッセージを送った。そして画面を悶々と見つめ、少し言葉が少な過ぎたかと、年末年始はゆっくり過ごしてほしい旨を送り足した。
マメになり過ぎて気味悪がられるのも悲しい。かといって、好きな人に元気がないことはわかっているので、構わずにはいられない。
「電話したら迷惑かな・・・。」
ソファに寝転がって、画面を凝視し続けていると、送ったメッセージが立て続けに既読になる。返信が来るかとハラハラ見つめ続けていると、急にスマホが着信を告げて大きな音を奏で始めた。
「うわッ、ちょ、え・・・大友!?」
驚いて部屋で一人間抜けな声で騒ぐ。
以心伝心かと表示された大友の名に歓喜して、急いで通話ボタンを押した。心臓が轟音を立てていたので、声が上擦らないようにするのがやっとだった。
「はい。飯塚です。」
『大友、だけど・・・。』
「うん。疲れてるのに、休まなくていいの?」
『ちょっとだけ・・・いい?』
「もちろん。」
今朝、また年明けに会おうと約束して送り出した時は、もう少し元気だったように思う。受話器から聴こえてくる大友の声に覇気がない。出会ってから今まで、彼に覇気があったためしはないけれど、元気がない事を繕う気配すらない大友に首を傾げる。そして電話の向こうから電車の走る音をキャッチして、彼が外から電話をかけていることに気付いた。もう夜の十時を過ぎている。随分遅い外出だ。
「大友、今、外にいる?」
『・・・うん。』
「暗いところで電話しながらは危ないよ。」
せっかく掛けてきてくれた電話を切るのは心苦しいが、大友を危ない目に合わせたくはない。
『おまえ、過保護。駅のホームだから、大丈夫。ベンチに座ってるし。』
「そう。なら、いいんだけど。」
電話越しに大友が力なく笑う。そして溜息をついたきり、大友は何かを逡巡しているのか、そのまま黙り込んでしまう。
「大友。どうした?」
『・・・飯塚、あのさ・・・』
「うん?」
声を詰まらせて話す大友に、彼の必死さを感じ取る。飯塚はスマホを耳に押し当てて、ついでに音量も上げて、大友の声に耳を傾けた。
『・・・今から・・・行っても、いい?』
「俺んち? もちろん、おいで。」
『・・・迷惑じゃない?』
泣きそうな大友の声音に思わずソファから立ち上がって、マイクに向かって声を大きくする。ついもう片方の手に拳を作って力んでしまうほどだった。
「いつでもおいで、って言っただろ?」
『・・・うん。』
電話の向こうで鼻を啜る音がする。大友の姿が見えないことにやきもきして、居ても立ってもいられなくなった。
『外、寒い・・・あ、電車来た。切る、から・・・。』
ちょっと待ってと声を上げるより前に通話が切れる。一度来た我が家に彼が迷うとは思えなかったけど、大友を一人にすることが心配だった。心も身体も凍てつかせて来るような気がして、コートを急いで羽織って鍵片手に家を飛び出す。飯塚は最寄り駅までの夜道を走って突き進んだ。
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朝霧とおる