ふとした瞬間に、彼の目が人の背を追い掛けて、すぐに落胆の色に変わる。
人出の多いショッピングモールで、大友が繰り返す一連の動作を、飯塚は気付かぬフリをして見守り続けていた。
大友の瞳は誰かを探している。きっと本人にとっても無意識の行動だろう。彼の仕草に気付いてから、今の男で十人目だった。背が高く、細身、グレーのコートという共通点。それが大友の心に居座り続ける面影なんだろう。
「大友。そろそろ昼にしようか。お腹は空いた?」
「あー・・・あんまり、食欲ないかも。軽めでいい。」
「そう?」
近くの喫茶店に促して、席に着いたと同時に大友が溜息をつく。飯塚も彼の溜息に苦笑で応えた。
「人多いね。疲れた?」
「ちょっとな。でも・・・気晴らしにはなったかも。」
さらっと嘘をついてくる大友に、この恋の難しさを感じる。気晴らしどころか、今日は疲れさせただけかもしれない。しかし約束通り、彼をこのまま解放するべきか迷い始める。
「ねぇ、大友。この後、うちへ来ない?」
「え・・・?」
並んで歩いているはずの自分を見てくれないことと、見知らぬ誰かの影を追い掛け続けることへの嫉妬。付き合っているとは到底言えないような関係で嫉妬心を抱くのもおかしな話だが、大友への独占欲は出会った日から順調に育っていた。
「別に何もしないよ。のんびりして・・・夕飯、鍋でも一緒にどう?」
「・・・行く。」
大友の瞳が戸惑うように揺れたので、断られると思った。しかし無理に笑顔を作って、どんな部屋か楽しみだと言い出すから、待てができなかった自分を悔いる。
こんな顔をさせたいわけじゃなかった。
しかし振り向いてほしい気持ちが勝って、強引に手を伸ばしてしまう浅はかな自分に幻滅する。これで何度失敗してきたことか。
「飯塚ってさ、やっぱ金持ちだよね。」
「え?」
「俺が薦めた服、どれも結構高かったのに、あっさり買うんだもん。」
「気に入ったからいいんだよ。せっかく大友に見立ててもらったし。」
「いつも着てるスーツも高そう、って蘭さんと話してた。」
指摘された通り、同年代では給料が良い方ではあるし、大友は自分の勤め先を知っている。あからさまに否定しても、かえって嫌味だろう。大人しく口を噤んでいると、大友が笑い出す。
「ごめん。別に変な意味じゃなくて、羨ましいなっていう話。でも、貢ぐのはやめろよ?」
「さすがにそれはない。」
「ならいいけど・・・。人が良さそうだからATMにされそうだよね、おまえ。」
随分な言い草に飯塚も大友につられて笑う。
「あのさ・・・。」
笑っていたかと思ったら、急に神妙な面持ちでトーンダウンしたので、心臓は嫌な跳ね方をした。
「俺、しばらく仕事だけに集中したい。」
それはつまり、告白への返事は良くて保留というところだろう。
「待っててもいい?」
「でも・・・。」
先手を打って待つことを宣言しておかないと、切られて終わり。そんな気配すらした。
「俺の勝手で待つだけだから。」
食い下がってみると、大友の瞳が揺れる。そこにある気持ちが戸惑いなのか期待なのかはわからなかったけれど。こういう時は自分の都合の良いように解釈するに限る。
運ばれてきたクラブサンドに手を伸ばす。同じように黙って手を伸ばしてきた大友の頬は微かに赤く染まっていた。
いつもありがとうございます!!
にほんブログ村
B L ♂ U N I O N
Twitter
@AsagiriToru
朝霧とおる