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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

恋を結う日々13

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恋を結う日々13

涼し気な目元。アイロンがきちんとかけられたシャツ。スーツ姿も似合っていたけれど、背が高くて手足が長いと何でも様になるのだな、と呆然と飯塚を見つめる。

「良かった。来てくれた。」

約束を破るヤツだと思われるのは心外だが、確かに疑われてもおかしくないほど素っ気ない態度を取っていたのは大友の方だ。

「・・・約束したんだから、守るよ。」

口からこぼれてしまった抗議は、途中から尻つぼみとなって消え入るような声になる。

「大友。」

椅子にも座らず突っ立っている大友に、飯塚の手が伸びてきて頬をかすめる。

「大丈夫?」

店の中は暗いからバレないと思っていたが、大友の認識はどうやら甘かったらしい。

泣きはしなかったものの、安眠にはほど遠く、目元が腫れてクマもできていた。午前中、しっかり目元は冷やし、クマは商売道具のコンシーラーで隠したのだが、腫れの方は引いてくれなかった。

「・・・大したことない。」

いい歳をして、みっともない自分に悲しくなる。ただのやせ我慢で飯塚に微笑んだが、彼の顔はかえって曇った。

「大友。無理して笑うなよ。傷付いて落ち込んでるのに、それを格好悪いだなんて思わないよ。」

「・・・。」

飯塚の言葉に胸がキュッと掴まれたように苦しくなる。優しくされることに自分は飢えているから、こんな風に気遣われたら一瞬で囚われてしまう。知り合って間もない飯塚に心を明け渡せるほど度胸はない。前の恋も捨て切れていないのに、自分は心底ズルい。彼の優しさに絆されて、甘い蜜だけ吸おうとしている。

「おまえさ・・・。」

「うん?」

「誰にも、そうなの?」

「え?」

飯塚はいつもこんな風に口説くんだろうか。相手の目を見つめて、優しい声で語り掛け、気持ちを汲み取ってくれる。

「甘ったるい・・・。」

本音でもあり、気遣われることへの照れ臭さもある。

あらゆることに器用そうな男。今のところ、大友の目には飯塚とはそういう男に見える。しかしそんな彼がフリーだというんだから、世の中よくわからない。皆、目が節穴なのではなかろうか。

「俺ね、好きな人は甘やかしたいの。行き過ぎてフラれたんだけどね、つい先日も。」

「あっちの趣味が悪いとかじゃないの。」

見つめてくる熱い視線に耐えかねて、つい思ってもいないことが口を突いて出る。

「そんなことはないと思うけど。至ってノーマルなはず。」

「どうだか。」

「ツンケンしてるのも可愛い。」

「ッ!?」

飯塚の視線を避けてカウンターの中ばかり見ていたら、不意を突かれて手を掴まれる。大友の手はスローモーションのようにゆっくりと飯塚の口もとまで運ばれて、ふわりと柔らかい唇が手の甲に触れた。

「ねぇ、大友。明日、ヒマ?」

「明日・・・。」

特に用事らしいことは何もない。年末は実家に帰る予定もなかった。しかし素直に頷くのも癪でつい黙り込んでしまう。

「年末だから、どこも人出は多いと思うけど、買い物に付き合ってくれたら嬉しい。ご飯、ご馳走するから。」

「・・・。」

二人の様子を窺っていた蘭が、答えに窮している大友に代わって飯塚に問う。

「買い物って洋服?」

「はい。自分で選ぶといつも同じような物ばかりになっちゃうから。」

「それ、いいわね。大友くん、センス抜群だし。」

「俺、服の方のスタイリストじゃないんだけど・・・。」

ブツブツと意味のない反論をしつつ、本当は誘ってもらえて嬉しかった。そこに恋愛感情があってもなくても、人に必要とされると安心する。

「いってらっしゃいよ、大友くん。ご飯もご馳走してくれるっていうんだし。」

蘭の加勢に大友は折れて頷く。しかし飯塚は大友からしっかり言質を取りたいようで、念を押すように来てくれるかどうか尋ねてきた。

「別に用事ないし・・・行く。」

「良かった。」

プライベートで誰かと約束するのは本当に久しぶりだった。しかし浮かれ切っているかというと、それも少し違った。

戸惑っている。まだ恋には前向きになれない。自分の頭で明確な答えが出る前に、事が進んでいくことに尻込みしていた。

少し待って。少しだけでいいから。そんな気持ち。

「大友。」

「・・・。」

「ごめん。ちょっと強引だった?」

「ッ・・・。」

大友の心を見透かしたような言葉にドキリとする。そんな顔に出ていたか。

「お昼食べたら、解散にしようか。」

「え?」

「大友の気晴らしになればと思ったんだけど・・・連れ出して疲れさせてたら、意味ないし。」

「・・・。」

飯塚の言葉に、大友は顔を火照らせる。下心あってのお誘いだとばかり思っていた。だから大友を心配した上での発言だと知って、邪な考えしか頭になかった自分が急に恥ずかしくなる。

こんな優しさ、自分は知らない。免疫のない優しさに狼狽える大友をよそに、飯塚は気遣うように伸ばした手で大友の目元に触れ、微笑みかけてきた。









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