肌に纏わりつく湿気にうんざりしながら、同じ部屋から別々に出勤する。鍵は渡されているが、今藤のいない部屋に帰るなんて虚しいことはしたくないので、鍵が活躍することはほとんどない。
「ちゃんと食って、ちゃんと寝ろよ。それと週末まで飲むな。」
「わかったって……」
素直に頷いたのは、金曜日の失態があるからだ。土日とも不調で迷惑を掛けた手前、強気に出るわけにもいかない。
「あと、金曜日は迎えにいくから。」
「え?」
「お預け喰らった分、きっちり回収する。また逃げられたら堪んない。」
「なッ……」
恋人らしい行為をさせてくれなかったのは、むしろ今藤の方だ。手を伸ばしてもはぐらかされて、雅人だけ一方的に甘やかされた。
激しい応酬はできそうになかったから、結果的に今藤の取った行動は正しい。挿入が伴わなかった分、体力も温存できて、憔悴していた神経も回復に向かっていた。しかし煽られた分の劣情をぶつけられないというのは、雅人の身体に決して小さくない燻りを残している。
「そ、それは俺が悪いのかよ?」
「弱ってるやつを虐める趣味はないから。」
「俺は……」
「してほしかった?」
朝からこんな事を肯定するのは憚られて、顔を背ける。しかし今藤の強引な手はいとも簡単に雅人の顎をすくって口付けまで寄越した。
「ッ……」
「心配させた分の仕返し。週末、覚悟しろよ。」
「ホント、性格悪い……」
「好きなくせに。」
他の奴にこんな事を言われても興醒めだが、今藤が言う分には納得してしまう自分がいる。否定はできないから、答えずに背を向けて玄関へ向かう。
これから一週間会えないことを思うと、茶化してくれた事が有難い。片時も離れずにいてくれたこの二日間と、次の週末の約束が今週を乗り切るための糧だ。
出勤する気重さを見透かして、揶揄ってくれるのは今藤の優しさ。意地が悪いように見せかけて、雅人が甘えやすいようにしてくれている。
愛されている安心感は何にも代え難い。連絡も寄越さず酒に逃げた自分を、探し回って文句も言わずに受け止めてくれる。これが愛でなくて何だと、朝から胸と目が疼く。二日間でたっぷり纏ってしまった甘さを心の奥に仕舞って、雅人は景気付けに頬を叩く。
「なぁ、金曜日……来るって、本社まで戻ってくるのか?」
「ああ。課長にさっさと報告して帰ろうと思って。どうせあの人、残ってやってるし。」
「飯、奢る。」
「相殺しないぞ?」
「え?」
「金曜のツケは、身体で払え。」
「ッ……」
言い方ってあると思う。
しかし文句を言う前に、引き寄せられて抱擁される。今朝は今まで過ごしたどんな朝より漂う空気が柔らかい。頬に今藤の唇が触れて、行ってこいと促される。こんな風にされたらかえって行きたくなくなるが、気恥ずかしさが背を押して、今藤を振り返らずに玄関を出る。
「あぁ、もう……顔、熱い……」
蹲りたい気持ちをどうにか堪えて、一歩一歩足を進める。会社のロビーを通り過ぎる頃には、いつも通り闘う気力が戻ってきた。
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朝霧とおる