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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

紫陽花6

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紫陽花6

梅雨入り後も雨が中休みしていた北海道は、幸い傘を差さずに済んでいる。たくさんの書類を抱えながらの移動に苦心しないのは助かる。

「今藤、もうお昼決めてる?」

「いや、まだ。オススメある?」

「イクラ食える?」

「もちろん。海鮮もの?」

「おう。」

大学の講堂を借りて催される勉強会では、懐かしい顔に会うこともしばしばだ。大学時代の旧友に会うこともあれば、社会人になって知り合った研究者と再会を果たすこともある。研究内容が変わらなければ、再会できる頻度も高く、親しくなくてもいつの間にか顔見知りになっている。

椎名は大学時代同じゼミだった。去年会った時にはなかったものが、今、彼の薬指で光っている。年賀状で結婚報告があったから、新婚生活を満喫しているはずだ。

「おめでと。」

「ああ。ようやく。うちの親が反対してたけど、強引に。」

「大丈夫なのか?」

「俺の人生だもん。なんだかんだ口出してきたって、親が責任取ってくれるわけじゃないし。揉めたら絶対みっちゃんの味方するって決めてる。」

結婚してからも、嫁でも奥さんでもなく愛称で呼び続けるのが彼らしい。大学時代から付き合っていた二人は、互いに研究職に就いている。

「真面目だし、仕事も順調そうだし、何が問題なんだ?」

「それがダメなんだと。仕事バリバリだと、家のことができない、って。時代錯誤もいいところだよな。家事やってもらうために結婚するんじゃねぇ、っての。」

進の両親も似たり寄ったりの価値観を持っていることを考えると、そういう風潮で生きてきた世代だろう。

皆が皆、押し付けてくるわけではないが、強制されれば反発もしたくなるし、生活に馴染まないことを強いられると息苦しくなる。結果、心が離れて、物理的にも距離を作ってしまう。血の繋がりがあっても、互いを尊重できないと、かえって拗れるのは経験済みだ。

「そっちは、仕事どう?」

「まあ、順調かな。来年、一区切り付きそう。」

「もしかして、自分の研究室?」

「ようやくな。」

「いいなぁ!」

「だろ?」

勤めている会社の組織体制が全く違うので、そもそも椎名の会社では個人に研究室が与えられることはない。

自分が力を入れたい研究をやらせてもらえるというのは、研究職に就く者であれば多くが憧れる。その切符がようやく目の前にまで迫っていたので、近頃手持ちの研究に熱が入っている。一方で、甲斐から目を離していたので、必要以上に彼の心を不安定にさせてしまったのだ。

「どうかした?」

「いや。」

思わず苦笑いをした進を、椎名が不思議そうに見上げてくる。

「色々謎だよなぁ、今藤って。」

「そうか?」

「私生活が想像できない。どっかの組の跡取りとかじゃないよね?」

「どんなイメージなんだよ。」

陽気に笑い飛ばしながら、詮索もしてこない椎名に救われたのは一度や二度ではない。込み入った事情は何も話してはいないが、一切踏み込んで来ないことを考えると、彼なりにある程度の察しはついているのかもしれない。

「あ、そこの青い看板。」

「随分人気なんだな。」

行列の長さに眉を潜めると、椎名が笑う。

「ここ、回転早いから、大丈夫だって。」

椎名の言う通り十五分も並ばずに着席する。都内では見られない安価で新鮮な丼を前に、思わずシャッターを切ると、椎名が無言で含み笑いをしてくる。

「送るんだよ。寂しがってるから。」

なんとなく椎名には言いたくなって恋人の存在を匂わせる。

「俺、みっちゃんに食べ物の写真は絶対送らない。」

「何で?」

「自分だけ美味しい物食べてズルイ、って前怒られた。」

「平和な夫婦だな。」

「食い物の恨みは怖えぞ?」

椎名からの忠告を笑って流す。甲斐の怒った顔が見られるなら、それも一興だと思ったのだ。どんな反応が返ってくるか想像しながら、送信する。送った写真はすぐ既読になった。








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