どんな顔をして出迎えてくれるのか、甲斐の落ち着かない胸中を思うと、遅延トラブルは痛い。順調なフライトに油断していたら、都内に入って車両故障で足止めをくってしまった。
この状況だと、定時の退社時刻には間に合わない。課長への一報より甲斐への連絡を優先してしまったのは、自分らしからぬ行動だ。それだけ進も甲斐と会いたい気持ちが募っていた。たかだか一週間。厳密に言えば五日。
いい大人二人が、揃いも揃って必死になっていることに内心苦笑する。耐えられずに停車した駅で降り、タクシー乗り場に直行してしまった。
夕方の都心は車が多く行き交う。信号以外のところで停滞を余儀なくされると逐一イライラしていた。甲斐と付き合い始めて、忍耐力が刮げ落ちてしまったかもしれない。
胸ポケットで震えた携帯電話に甲斐からのメッセージを期待したが、研究開発部からの着信だった。また上田からのトラブル報告かと思いきや、珍しく課長直々の電話で身構える。
『今日、こっち来るんだよね?』
「はい、今向かってます。」
『ちょっと、時間くれる?』
ちょっとが長い課長からのお誘いに、よりによって今日である必要があるのかどうか、本音では問いただしたかった。しかし甲斐との事は直属の上司に否を訴えるには適さない理由なので、承諾するしかない。
「構いません。あと十分ほどで着くと思います。」
『ああ、全く急いでないよ。むしろ、こっちも終わってないし。』
課長は急いでいなくとも、こっちは即刻迎えに行きたい相手がいる。
けれど甲斐には自宅待機を願い出るしかないだろう。また逃げられる前に、先週の穴埋めを早くしたい。再び彼が落ち込む事態になったら、どう責任を取ってくれるのかと、恨めしい気分で通話を切る。
迎えに行けないことを知った時、甲斐が落胆する姿が目に浮かぶ。せめて直接伝えようと、メッセージは送らずに、営業部へ一度足を運ぶことにした。
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朝霧とおる