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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

百の夜から明けて41

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百の夜から明けて41

今藤と雅人、酒井の三人で飲むはずが、いつの間にか人集めをしていたらしく、結局本社にいる同期がほとんど揃う大所帯の飲み会になった。隣りの席でいつもより静かに仕事をしていた酒井を不審に思うべきだった。ある事ない事、顔を出した面々に言い回り、雅人が今藤を伴って現れた時には、大盛り上がりだった。

「甲斐、彼女の話聞かせろよ。ここだけの話にしといてやるからさぁ。」

ここだけの話と言ったって随分な人数だ。秘密が秘密にならない。言ったら最後、翌週には色んなヒレがついて社内で駆け巡っているに違いない。

「彼女なんていない、って言ってんだろ。」

「携帯見ながらニヤニヤしてんじゃん。」

「へぇ、そうなの?」

今藤があっさり裏切って、酒井の話に反応する。今藤からのメールに一喜一憂している姿など、本人に知られたくない。しかし酒井という目撃者がいる以上、なかった事にするのも難しく、雅人は頭を抱えた。

「昼休みとか、上がり間近とか、携帯見ながらドタバタしてたり、独り言のオンパレードだったり。怪しいだろ?」

「怪しいな。」

「怪しくない! ホント違うんだってば!!」

彼女でないのは確かだが、正直に今藤からのメッセージだと言うこともできない。それこそ家に帰ったら彼に何と言って揶揄われるか。今藤ならしばらく雅人を揶揄うためのネタぐらいにはしてくると思う。

素知らぬ顔で酒井に同調して煽る今藤が憎い。どう考えても慌てる雅人を見て面白がっている。

「溜息多い時とか、こっちが神経使っちゃってさ。甲斐雅人くんは彼女と喧嘩でもしたのかね。」

「いつ頃?」

今藤がちらりと雅人に視線を寄越しながら、酒井に話を促す。

「あー・・・ちょうど今藤が学会で出払ってる時だな。先週。凄いピリピリでさ。」

酒井のアホ。雅人をそうさせた張本人が目の前にいるのにどうしてくれるんだ、と言えない悪態を心の中で吐き出す。

もう居た堪れないなんていう次元の話ではなく、穴があったら奥深くに逃げ込んで、二度と出てきたくはない。もういっそ硬い土で埋め固めてもらい化石にでもなってしまいたい。

「でもさ、週末仲直りしたっぽい。今週、甲斐のやつ絶好調だったから。」

口の軽い同期に見られたのが運の尽きだ。きっと当分このネタで弄られる。今藤と酒井からのダブルパンチで雅人の心は折れきった。

「甲斐、認めればラクだぞ。」

酒井の脅しに屈するものかと、雅人は黙ってグラスに口をつける。今藤の方へちらりと視線をやると、肩を震わせて笑っている。この後控えている彼との約束をすっぽかしてやろうかとさえ思えてきた。しかし今藤が酒井に放った一言に雅人は絶句する。

「俺の可愛い恋人の話しようか?」

「ッ!!」

「え!? 今藤、彼女いんの?」

酒井の問いに微笑んだだけで否定も肯定もしない今藤にさすがと思いつつも、雅人の心臓は跳ね上がった。言ってしまって平気なのか、と戸惑い、同時にハラハラする。

「俺が話せば、甲斐も話す気になるかも。」

「ならないし。」

「強がりなくせに寂しがり屋で、可愛いんだよね。口が悪くて素直じゃないから、余計揶揄いたくなるっていうか。」

「へぇ、口が悪い彼女かぁ。なんか今藤の彼女って大人で清楚な感じを想像してたけど、ちょっと意外。」

「・・・。」

今藤の視線を一身に浴びて、雅人は顔を背ける。熱くなっていく顔をアルコールの所為にしようと、握っていたグラスからいっきにビールを飲みほした。

「じゃあ、元気で可愛い感じの子?」

「元気っていうか、暴れ馬。」

「でも可愛いんだ?」

「そう。」

今藤と酒井に可愛いを連呼されて、雅人はテーブルに伏せる。もう恥ずかしさと居た堪れなさに赤く染まった顔は隠しきれない。

「なんか甲斐が撃沈してる。」

酒井が面白がって指で突いてくる。雅人はその手を邪険に払いながら、どうしても顔を上げることができなかった。

「甲斐、彼女はいないと思うよ。こいつ、今別のことで忙しいから。」

「忙しいって、趣味とか?」

伏せた腕の隙間から今藤の目を見ると、揶揄いを含んだ笑みが宿っている。

「構ってほしくて、追っかけまわしてるから、それどころじゃねぇよな?」

「え? アイドルとか?」

話が奇妙な方向へそれたのも構わず、今藤はおかしそうに笑って雅人と酒井を交互に眺めているだけだ。雅人を助ける気があっての発言かどうかも怪しい。

確かに今藤の動向ばかりを気にして追い掛け回しているようなものだけど、言い方ってあると思う。あんまりな言い草だが、勝手に酒井が勘違いして事が収まってくれるなら、それでもいいかもしれない。

「なぁ、甲斐。充実してんだろ?」

「黙れ。」

今藤の勝ち誇ったような笑みにぴしゃりと言い放って、雅人はようやく反撃に転じる。気まずい思いが完全に拭えるわけではないけれど、自分が秘密を暴露してはいけないと少しばかり気負い過ぎていたことを感じる。リラックスした顔で酒井と笑う今藤を見ると、やはり彼の方が一枚上手だなと、こっそり白旗を上げた。









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