目覚めてまず確認したのは陽の位置だった。朝の職務を始めるには遅過ぎることを察し、露天の湯浴み場で凛と身体を重ねている事実に驚愕する。ここへ自ら来た憶えはなかったからだ。
しかし顔にはその驚きを出さずに、目の前で泣いている愛しい塊に全神経を注いだ。
凛の言う夢の使者がどんなものなのか、その実体を理解するには至らなかったが、目覚めぬ自分に凛が心を痛めて必死になってくれたことだけはわかった。
夢の中で会った凛は、凛であって凛でなかった。
今、目の前で自分のために温かい涙を流す存在が、偽りない凛の姿だと確信している。
朝の職務を放棄して眠りこけていたらしい自分には、今から山のような仕事が待っている。しかしこの身体の昂りをどうしたものかと思案する。薄手の衣を一枚だけ纏い、そのはだけた間から紫苑の象徴は天を向いて物欲しそうに膨れていた。
しかし凛をひと目見ただけで、彼が疲労困憊してことを察してしまう。彼は自分を救い出すために、どうやら癒しの力を使ってしまったらしい。
癒しの力は命の源となる力を相手に注ぎ込む。
紫苑が漲っている代わりに、凛は命を磨り減らしたのだ。今の凛から体力を奪ってはいけない。
紫苑は本能でそう感じ、凛に伸ばしかけた手を抱き締める手に変えた。
しばらく紫苑の腕の中で大人しく抱擁されていた凛は、規則正しい呼吸と共に、眠りの世界へ落ちていった。
「凛」
「・・・。」
すうすうと気持ち良さそうな寝息を立てて、脱力した凛をそっと抱き上げて、紫苑は花湯から上がる。
水を吸って重くなった白の衣は凛を揺らさないよう、慎重に肌から落とした。
「誰か、そこにおるか?」
囁くような紫苑の声にも、すぐに外から返事がやってくる。
「露博にございます。」
「露博、迷惑をかけた。私はどうやら無事のようだ。」
現れた忠実な世話役を引き連れて、紫苑は寝室へと足を向ける。
「凛を休ませたい。私はすぐに公務へ向かおう。」
「お身体はよろしいのですか?」
「問題ない。むしろ凛の力を分け与えられたから漲っているよ。」
「皆に伝えて参ります。お召し物をすぐにご用意いたしますゆえ。」
「頼む。」
凛を寝台へと降ろすと、緩やかに寝台が沈んでいく。花湯と香の香りで満ちた身体は魅惑的で、紫苑の五感には毒だった。
愛でたい欲求と戦うのは紫苑にとって何よりもの苦行だが、疲弊した身体を揺り起こし乱暴することなど自分が許せなくなる。凛の回復を待って、その時思い切り可愛いがろうと、今は頬を撫でるだけにとどめた。
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朝霧とおる