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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

百の夜から明けて36

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百の夜から明けて36

朝送ったメッセージへの返信がないまま、レコーダーを持っているかと突然尋ねられ、雅人は首を傾げる。持っていると返事を出したら、普段の今藤とはイメージの合わない番組を指定されて、またもや謎が増える。

「なに、首傾げてんの?」

「あぁ、ちょっと。」

酒井に携帯と睨めっこしている姿を目撃され、雅人は慌てて今藤からのメッセージを閉じた。

「甲斐が怪しい・・・。」

「な、何がだよ。」

「狼狽えてるのが、怪しい。女だろ?」

「違うって!」

「最近、飲みに誘っても来ないもんなぁ、おまえ。」

「たまたまだって!」

「じゃあ今度、今藤も誘って飲みに行こうぜ。洗いざらい吐かせてやる。」

「はぁ!?」

今藤の名前を出されて、酒井が意図している意味とは違うところで雅人は焦りを感じる。酒井と二人きりなら動揺しないだろうが、目の前に今藤がいる中でそんな話をしたら、今藤が面白がって何か仕掛けてきそうだ。そして彼の事だから、ハラハラする雅人の横で平然と笑っていそうな気がする。

そんな飲み会、行きたくないと心の中で叫んだところで、酒井に雅人の胸中はわかるはずもない。早速楽しそうに予定を組み始めた酒井を見て、雅人は週初めから有難くない疲労感をまとって溜息をついた。


 * * *


家に帰ってもそわそわと落ち着かないのは、いつも就業後に交わし合う今藤との電話ができずじまいだったからだ。彼がどういうタイムスケジュールで動いているのかも把握していないから、むやみに電話することもできない。したところで取ってもらえないのがオチだろう。

「ビール買ってくれば良かった・・・。」

米の重さに屈したからではなく、今藤が帰ってくる日に二人で食卓を囲むことしか頭になくて、完全にビールのことは抜け落ちていたのだ。口寂しくて、不満が爆発へと向かっていた中、急に携帯が着信を告げる。

「うわッ!」

ドクドクと急に強く打ち始めた心臓に一呼吸し、雅人は何事もなかったように装いながら電話を取った。

「今藤? お疲れ。」

『お疲れ。そういえば、アレ、撮れた?』

「撮れたけど・・・なんで?」

一番引っ掛かっていることを聞くと、上田が撮り忘れて落ち込んでいるのをどうにかするためだと、今藤が笑いながら答えてきた。ただの後輩のためにそんな事をするものだろうかと考え、胸に僅かながら棘が刺さる。

『そういえば、ラーメンも買って帰ることにしたから。』

「はぁ・・・。」

『帰る日、直行して、そのまま泊まっていい? 昼にでも食おう。』

「いいけど・・・服は?」

今藤の言葉に落ち込んだり、嬉しかったり、自分でも忙しいなと思うけれど、ちゃんと気にしてくれている事がわかると舞い上がる気持ちは止められない。

『服はその分も詰めてきたから。』

「確信犯かよ。」

呆れるように言い返しつつ、本当はニヤけてしまうほど嬉しい。良かった、忘れられていない、と安心してしまうのは、今藤の気持ちを信用していないようで申し訳ないけれど。物理的な距離が必ずしも彼にとって心の距離にはならないんだとはっきりわかっただけでも収穫だ。

『広報のやつと相部屋なんだけどさ、去年もいびきが凄くて、ホント勘弁してほしいんだよね。』

「え・・・?」

てっきり上田と相部屋なのだと思っていたから、彼から知らされた事実に拍子抜けする。

『上田は一年違いの広報のやつと一緒。』

雅人の間の抜けた相槌に何かを感じ取ったらしい今藤が情報を付け加えてくる。

「そう、なんだ・・・。」

『十も歳が違う上司と相部屋じゃあ地獄だろ。』

「それもそっか。」

ホッとして心に巣食うモヤモヤが解消されていくことを思うと、今さらながら、自分は結構上田の存在を気にしているのだと自覚する。嫉妬じゃないぞと言い聞かせてみるものの、認めなければならないだけの要素は多かった。

『甲斐、ごめん。掛けたばっかりで悪いけど、もう切るわ。』

「あ、うん・・・。」

『おやすみ。』

「うん。おやすみ。」

焦った口調で突然切れた電話を呆然と見つめていると、相部屋の人が風呂を出たらしいことを送られてきたメッセージで知る。烏の行水、と銘打ったメッセージが続けざまに届いて、雅人は携帯の前で苦笑した。

忙しい合間を縫って、人目に配慮して、そうやって今藤が雅人のことを気遣って電話をくれたのだ。もしかしたら相部屋が誰かという話も、雅人が気にしているだろうことをわかっていて、あえて話してくれたのかもしれない。

なんだかんだと大切にされている。果たして自分が今藤の立場になった時、同じくらい恋人に気を配れるかと聞かれたら、正直仕事にてんてこまいで気に掛ける余裕すらないかもしれない。

「なんか、俺・・・ちっちゃいなぁ・・・。」

今藤の器の大きさを思うと、自分の心の狭さが残念になるけれど、ここは素直に今藤の優しさに甘えるより他ない気がした。

携帯を見つめながら、今藤に来週の予定を聞き忘れてしまったことに気付く。酒井が雅人の隠し事をなんとか暴いてやろうと張り切っていたので誘いたくなかったが、どうせ雅人が渋ったところで酒井から連絡が行ってしまうだろう。

雅人は一度置きかけた携帯を再び手に取って、今藤へメッセージを送る。すぐに彼から承諾の返事が届いて、雅人はこっそり肩を落とした。










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