露天の湯浴み場に花湯をたっぷり用意し、凛は一糸纏わぬ姿でまず自ら花湯に浸かった。
冬の王宮に花は咲かない。夏場に熱心に取り置き乾燥させたものがあるだけだ。
しかし今生を思い起こさせるものが全くないよりマシだろう。花湯は紫苑がいつも休憩の折に口にするもの。幸せな時間を思わせるものはあった方がいい。
そして凛は花湯の周りに香を焚いた。癒しの力を存分に発揮させるために、凛と紫苑が好んで使う香だ。愛しい人と身体を重ねる時にも使う。
甘く官能的な香りは、紫苑を夢の世界から連れ戻す際に役立ってくれることを期待していた。
「凛様。紫苑様をお連れいたしました。」
「花湯に入れてください。」
紫苑の身体を纏っていたのは白の衣だけだった。冬用の厚い羽織物は取り払ってくれたようだ。
そのまま紫苑を花湯へ迎え入れ、露博や他の臣下たちに下がるよう命じる。王族でない者が癒しの力に触れると、時に力が過ぎて身体に悪いことがあるからだ。
「紫苑様、今、参りますね。」
まじないを唱え始めた凛の周囲がいっきに熱を持ち、身体が光に包まれる。
凛は口に含ませた熱気を紫苑に届けるべく、紫苑と唇を重ね、こじ開けて息を送り込む。すると紫苑の身体も熱を持って、途端に光の糸が二人を包み込んだ。
そしてそのまま目を閉じ、身体の力を抜いて、紫苑の鼓動と波長を合わせて同調していく。紫苑の中に感じ取った異質な存在を、感覚だけを頼りに探していくと、渦巻く黒い影を見つけて、凛は光を纏ったまま見つけた影めがけて、全ての意識を投入した。
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朝霧とおる