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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

百の夜から明けて35

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百の夜から明けて35

学会のお供は上田だと聞いた途端落ち込んだ甲斐に気付いたが、揶揄って臍を曲げられても困るので進は言葉を呑み込んだ。嫉妬されるのは良い気分だと小さな喜びに浸って、進は週末を甲斐と過ごした。

拗ねたり、嬉しそうだったり忙しいやつだが、見ていて飽きない。この愛すべき生き物に、ギリギリまで出張のことを断言していなかったのはわざとだった。甲斐は進の一挙一動に左右されやすいやつなのだと気付いてから、進なりに言うタイミングには気を遣っている。言い方も然りだ。

上田のことも突っかかってこないということは、かなり歳の離れた後輩に嫉妬していると認めることが嫌だからだろう。彼のプライドもわかるから、進としてもデリケートな部分を掘り起こして揉めようとは思わない。

進はガラガラとスーツケースを引っ張って、上田を伴い空港を出た。

乗り込んだ電車の中で携帯を確認すると、甲斐からメッセージが入っていた。恋人を送り出す言葉として、明太子忘れんなよ、というのはどうなんだろう。甘えたいのに強がって平気なフリをする彼のことを思うと、置いてきた恋人の存在を忘れるなよ、という忠告にも思える。

「課長からですか?」

「ああ。講演会の方が済んだら、一度報告の連絡くれってさ。」

甲斐からのメッセージを閉じて、返信は夜にでもゆっくりしようと決める。課長から届いていたメールを開けて上田にも見せてやると、頑張りましょうね、と二年目に突入した彼は意気込んで答えた。

講演会は初日に終えてしまうが、その後、企業出展が控えている。少ない人員で広報部となんとかやりくりしなければならないので、今回の出張で観光する暇は一切ない。甲斐にその事で愚痴をこぼすと、彼は興味なさそうな素振りをしつつもホッとした顔をしていた。

進のことを信用していない、というわけではなくて、好きという気持ちを持て余している雰囲気だ。コントロールしたくても、不意に湧き上がってくる思い通りにならない感情が、彼の中で渦巻いて上手く制御しきれていないのだろう。

甲斐は人間関係に関して器用な方だと思う。というより思っていた、というのが正しい。距離感を推し量るのはうまいけれど、一線を超えた途端、自分の胸に大きな感情がグサグサと突き刺さってくるから御しきれない。過去に関係のあった甲斐の彼女たちは、必ずしも彼の核心を突いていなかったからこそ、甲斐は飲み会のネタにするほど、あっけらかんとしていられたのだろう。

目を合わせても、心を掴まれて戸惑っている、と顔に出ている。それが途方もなく進を満足させてくれることを彼は知らないだろうと思う。それは紛れもなく、進が彼の特別である証だ。

「上田。今日の講演終わったら、旨い飯でも食いにいこう。観光できない分、せめて食い物ぐらいはな。」

「はい! ラーメン食べたいです!」

「じゃあ、そうしようか。」

上田から再び返ってきた威勢の良い返事に進は笑う。楽しそうなのは何よりだと安堵し、空港から二駅先の駅で勇んで降りた。


 * * *


会場の広さにキョロキョロと落ち着きのなかった上田だったが、講演のスライドも間違えなく操作して、無事に二人は大仕事を終えた。上田はしきりに緊張しないのかと尋ねてきたが、実際壇上へ上がってしまうと、オーディエンスの様子はわからない。客席も自分の立っている場所も暗く、メインはあくまで研究発表のスライドだからだ。

「声も聞き取りやすかったです。」

「そう? まぁ、一緒に研究してて、内容がわかってるから、っていうのもあると思うけど。上田も発表する機会がいずれあると思うから、いろんな人の発表を見て、イメトレしておくといいよ。」

「はい!」

「じゃあ、ラーメン行くか。」

嬉しそうに頷いた上田だったが、すぐに顔が曇る。

「展示の設営って、遅くなりそうですよね。」

「講演会が撤収した後だからね。一応予定では五時に終わる予定だったけど、押してるから、もう少し遅くなるかもな。」

「ですよね・・・。」

何故落ち込んでいるのだろうと不思議に思い尋ねると、上田には悪いが可愛らしい笑える事案だった。

「今日の放映逃すと、再放送とかなくて・・・。録画予約してくるの、忘れて出てきちゃったんです。」

動物の赤ちゃんを毎週放映している番組らしく、時間はゴールデンタイムのため、リアルタイムで見ようとするなら確かに出展の設営に阻まれそうだ。彼にとって忙しい日常の癒しらしく、撮り貯めて見返すことも多いそうだ。

進は少しの間、上田の忘れ物について考え、甲斐へメッセージを送る。そして返ってきたメッセージを確認して、上田を励ました。遠出をして気の使う上司と一週間共にする上田のことを考えると、気落ちしているなら少しでも持ち直してやりたい。録画一つで目を輝かせて喜んだ後輩を、進は面白い生き物を見るように横目で眺めた。









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