雅人の手淫への仕返しとばかりに、今藤がキスの合間に微笑んで、雅人の硬茎に絡めていた手を早くする。
「あ・・・こん、ど・・・ッ・・・」
「イきそう?」
空いている方の腕で抱き締められて、耳元で今藤が尋ねてくる。ぞわぞわと腰に走った甘い刺激に、雅人は天を仰いで今藤にしがみ付く。
「ほら、いいから。」
こんな事を囁かれて我慢なんてできない。彼の擦る手も早まって、雅人はあっという間に駆け上った。
「んッ・・・うッ・・・」
今藤の腕の中で雅人はのけぞって、極まった証を放つ。先に達したのが少し恥ずかしくてそっぽを向いて絶頂感が収まるのを待っていると、急に温かいもので包まれて目の前に星が飛ぶ。
「あッ、あ・・・待っ・・・今、ヤバ、いッ・・・」
残滓ごと吸い取られて、雅人は呻く。なんとか今藤を自分の身体から引き剝がそうするものの、力の入らない手ではびくともしなかった。
快感が過ぎて怖い。意図せず反射的に涙までこぼれてきて、もうどうにでもなれと抵抗するのもバカらしくなって身体から力を抜いた。
卑猥な音だけ残して、今藤の口がようやく雅人の分身から離れていく。
手を掴まれて彼の猛ったものに触れると、今藤が満足そうに息を吐き出した。今まで見た中で一番かと思えるほどの満たされた顔を見て、なんだか笑えてくる。恋人が喘いで悶絶しているのを見て楽しんでいるなんて悪趣味だ。
「・・・変態。」
「そう?」
今藤に覇気のない声で悪態をつく。しかし今藤は、そんな些細な事などどこ吹く風という顔だった。
途中で投げ出してしまった彼の硬茎に指を絡めて扱くと、今藤が小さく息を呑む。
「ッ・・・甲斐ッ・・・いい?」
今藤の切羽詰まった顔をこんなにじっくり下から眺めるなんてことは稀で、雅人は彼の顔を堪能するように見上げる。
「出せば?」
彼の絶頂を促すように擦る手を早めると、すぐに秘裂が蠢いて白濁の蜜が雅人の手や腹、胸を汚していく。
「くッ・・・ッ・・・」
普段余裕のある顔しか見せないから、眉を顰めて呻く彼を少し意外に思う。ある意味弱い部分を晒すことに抵抗があったわけではなく、偶然今まで見る機会がなかっただけなのか。それとも心の距離が近付いて許してくれる気になったのかはわからないけれど。
荒い息をそのままに、今藤が齧りつくようにキスを仕掛けてくる。
「今日は、騒がないんだな。」
「・・・。」
「はぁ・・・寝たい・・・。」
溜息と共に、雅人に体重を掛けてくる。脱力した大人の男に圧し掛かられれば重いが、雅人にはその重さが心地良く思えた。
「寝ろよ。疲れてんだろ?」
雅人の肩口に顔を埋めてきたので、彼の背に腕を回して、もう片方の手で今藤の髪を梳いた。
「なんか、甲斐が優しい。」
「いつも優しくしてんじゃん。」
雅人の言葉に今藤が耳元で笑う。しかし笑い声に疲れが色濃く出ていたので、早く休ませてやりたいという気持ちが勝り、文句を言う気にはならなかった。
「なぁ。」
「ん?」
「お土産、何か欲しい?」
「は?」
唐突に今藤の口から飛び出した言葉の意味がわからなくて、雅人は戸惑いながら首を傾げる。
「だから、出張土産。」
「え? 出張?」
「あれ、言ってなかったけ。」
「聞いてない、けど・・・。」
「一週間、福岡だから。」
「はぁ!?」
学会の準備は終えたのだから、夕飯をともにしたり、時間に余裕があればどちらかの家で過ごす日々が戻ってくるのだと思っていた。学会に誰が出席するかまで、雅人は考えが及んでいなかったのだ。また一週間、放置されるなんて。
「もう、ヤダ、おまえ!」
「は? ッて、痛いって。」
完全に八つ当たりだったが、雅人は今藤の脇腹をつまむ。たいして肉付きも良くないから、今藤は痛かったようで顔を顰める。
「寂しい?」
「・・・。」
「かーいくん。」
「・・・。」
「明太子でいい?」
寂しいかどうかなんて、雅人にわざわざ答えさせるまでもなく、今藤には筒抜けなのだ。深く追及してこなかったからと言って、居た堪れない雅人の気持ちがなくなるわけではない。
「・・・家で飯食わないし。」
「じゃあ、何がいい?」
一週間はそれなりに長い。夢中で仕事をしていればあっという間なはずなのに、この一週間、会いたい気持ちが募って、それなりに気は滅入った。もう一週間耐えるのかと思うと、考えただけでも発狂しそうになる。
「なぁ・・・一人?」
「いや。上田も連れてく。」
よりによって可愛がられている上田かと思うと、正直落ち込む。ホテルの部屋も一緒なんだろうなと思ったら、もう聞く気にもなれなかった。決して小さくない心のモヤモヤだが、この感情だけはどうしても明かしたくない。絶対に悟られたくなかった。ただ後輩研究者として可愛がっているだけの彼に不穏な感情を抱いているなんて知られたら、さすがに心の器が小さいと呆れられるだろう。
「やっぱり・・・明太子、買ってきて。」
そっぽを向いてポツリと要求をこぼす。今藤は意外そうに雅人へ視線を寄越したが、それも僅かな間だけだった。
「じゃあ、俺が帰ってくる日、飯炊いて待ってて。」
「・・・うん。」
一緒に食べたいという気持ちがバレたことへの気恥ずかしさはあったが、今藤が揶揄ってくることはなかったので、良しとすることにした。正確に雅人の意図を読んでくる彼に脱帽だが、恋人だからこれくらいの事を強請るのは問題ないと思う。
今藤が嬉しそうに微笑む。心のモヤモヤを隠すように雅人の方から彼を引き寄せて、二人でおやすみのキスをした。
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朝霧とおる