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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

百の夜から明けて30

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百の夜から明けて30

忙しいと聞いていたから、事務員が電話に出たことは致し方ない。けれど取り次いでもらうことができなくて、予想していたこととはいえ、雅人は肩を落とさずにはいられなかった。

もう四日会っていない。声も聞いていない。メッセージさえも一度簡潔な返信があっただけで、それ以降は既読にもなっていない。

「釣った魚に餌はやらない、ってやつか・・・。」

淡泊だと思う。比べる相手が女しかいないから男相手では勝手が違うものなのかもしれないけれど、やはりどうにかこうにか声だけでも聴きたいと思って受話器を上げたのだ。一応それらしい要件を作ってみたものの、結局徒労に終わったと言わざるを得ない。

「甲斐、彼女でもできたの?」

「あ、いや、今藤のこと。学会の準備で忙しいらしくてさ。」

「あぁ、それで拗ねちゃってるわけね。」

「拗ねてないって。」

「拗ねてるだろ? 携帯見ながら、日に日に眉間に皺が寄ってるよ、甲斐雅人くん。」

「どうせ俺は堪え性がないですよ。」

本当は連絡をくれないことに不満があるわけではない。同じ部署だから仕方ないと思いつつも、あんなに後輩の上田には目をかけているのに、雅人にはさっぱりだ。扱いの差が愛情の差だと単純に思うわけではないけれど、納得いかない自分がいることも否定できない。

研究開発部はメインの仕事場である研究室に携帯電話を持ち込めない。マメにチェックはできないし、そもそも連日終電が続いているから、今藤は本当に疲れ切っていて返事をする時間も惜しいという状況なんだと思う。

労いたいのにシャットアウトされていたら、恋人を励ましたいと意気込む雅人の気持ちは空振りに終わる。

今藤から音信不通になるのは今週だけだと宣言された。宣言通りなら、あと一日我慢すればいいだけなのに、会いたい会いたいと心が叫んでいる。いつの間にこんな好きになっていたんだろう。囚われて破綻することを望んでいるわけではないのに、その道めがけて突き進んでいる気がして、雅人は自分のメンタルが心配になった。

「はぁ・・・仕事やろ。」

「甲斐」

「ん?」

「おまえの週報の欄、また月曜から真っ白だけど大丈夫か。」

「あー・・・忘れてた・・・。」

今藤に振り回されるたび、何かが抜け落ちてしまうこのポンコツ頭をどうにかしたい。

「あぁ、もう・・・。」

溜息をつきながら、連絡寄越しやがれと心の中で悪態をつく。差し入れ作戦だと意気込んで、雅人はようやくスリープ状態に入っていたパソコンを起動させた。


 * * *


人目会えないかと思って、せっせと足を運んでしまう自分が痛々しい。研究室のチャイムを鳴らして現れたのは、一番お手すきの上田で、背後に一瞬今藤の姿を見てドアは閉まった。

「甲斐さん、お疲れ様です。」

「あ、うん、お疲れ・・・。」

「いつもありがとうございます。」

「いや、頑張って。調子どう?」

「明日には区切りつく、って課長が言ってました。」

そうでないと困る。この状況があと一週間続くかもなんて言われた日には、今藤欠乏症で家で一人飲みながら叫ぶことくらいはすると思う。

「中に入ってるシュークリームはあいつ用な。」

「はい、伝えておきます!」

ハキハキと威勢の良い返事を寄越した上田は、とても連日残業続きとは思えない元気さだ。いつでも明るくて、研究開発部の面々から可愛がられるのもわかる気がする。これくらいの愛嬌があれば今藤ももっと雅人を構うのだろうか。そう考えて、いつも憎まれ口ばかり叩いてしまうことを悔いた。

上田がもう一度ドアを開けて去っていくまで待つかどうか悩む。しかし彼は雅人のことを見送る気満々で、ニコニコと人好きする笑顔を浮かべたまま立っているだけだった。

チラリと一瞬でもいい。もう一回だけ今藤の姿が見られたら、という雅人の淡い期待は残念ながら届くことなく妙な間だけが空いていく。

「じゃあな、頑張れ。」

「はい! ありがとうございます!」

結局雅人は今藤の姿を見ずに立ち去る決意をし、後ろ髪を引かれる思いで研究棟をあとにする。追い掛けてきてくれないかと、わざわざゆっくり階段を降りたが、全くその気配はなく虚しさが胸をいっぱいにしていく。

「あぁ・・・なんか、マズイ・・・。」

会えなかったことに自分は相当落ち込んでいるらしい。身体から今週を乗り切ってやろうという意気込みがしおしおと抜け落ちていく。萎んで情けない、穴だらけで用済みの風船にでもなった気分だ。

こういう時は魔が差す前に真っすぐ家へ帰り着く方がいい。自分が放っておかれると弱いことは雅人自身、一番良く理解していた。自由奔放に見えて、実のところ人の目に見守られていないと落ち着かない。自分の周囲には昔から構ってくれる人ばかりが集っていたから、どうにも今藤の放任主義に不安を感じてしまう。しかし彼が悪いわけじゃない。いい歳をして、一週間も待てができない自分がどうかしている。

恋人は仕事で走り回っているわけで、同じ会社である分、忙しさが目に見えるから何の不安要素もないはずなのだ。応援してやれない自分が嫌になって、それもまた雅人を落ち込ませた。

雅人はカツカツと革靴でわざとらしく足音を立てて改札口を通る。ビールを一本だけ買って真っすぐ家に帰ると心に念じ続けて家路を急いだ。










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