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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

百の夜から明けて17

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百の夜から明けて17

甲斐のアパートを出た瞬間、空に向かって息を吐き出して、進は酒臭さをまとったまま駅の方へと歩き出した。

「生殺しもいいとこだよな・・・。」

心の中だけで呟くつもりが、つい口から言葉がこぼれ落ちる。

泊まっていけ、シャワーを浴びていけ、と一体何をさせる気なのかと問いただしたくなる。

皺の寄ったシャツに、寝癖だらけの髪を見ても、彼の違う一面を見られた満足感こそあるものの、全く幻滅したりはしなかった。ただシンプルに好きだと思う気持ちだけが進の心を占めている。

好きなヤツが弱っているなら慰めてやりたい。慰め方を間違えれば大惨事だが、まだ自分は間違えてはいないと思う。仲の良い同僚としての一線を守りつつも、いつも彼が笑顔でいてくれることを願う気持ちには偽りはないから。

酒臭い所為で電車に乗っている最中は冷たい視線が進を刺す。なかなかに痛い空気を耐えて最寄駅へ着くと、進は真っすぐ自宅を目指した。

鍵を差し込み、ドアノブを捻って部屋の中へ収まった瞬間、全身から力が抜けて暫く玄関で座り込む。

「はぁ・・・疲れた・・・。」

顔を手で覆ってみると、手汗を通してアルコールの匂いが進の鼻を刺激する。

「あいつ、もう・・・ホント、勘弁しろよ・・・。」

誰もいない空間で声を上げると、幾分気持ちが落ち着いた。昨夜から進の中で渦巻いていた気持ちが凪いでいくのが自分でもわかる。それくらい堪えたものが多過ぎて、甲斐に対して湧き上がっていた劣情の強さを思う。

「家に上がるのはアウトだな・・・。」

致し方ない展開だったとはいえ、金輪際、承諾できかねる状況だ。

「シャワー、浴びるか・・・。」

とにかくすっきりしないと、余計なことをごちゃごちゃと考えかねない。報告書の提出期限が迫っている時期だということも進にとっては幸いだった。家でこなさなければならないノルマが盛り沢山だからだ。

「そうだ、上田に読ませなきゃいけない論文もピックアップしないと・・・。」

現場の機械操作にもすったもんだしている上田には酷だが、徐々にインプットのペースを上げさせる必要がある。鞄の中に入っていた手帳を取り出して走り書きだけすると、進はバスルームへと向かう。もう完全に進の頭は仕事モードに切り替わっていた。




 * * *


守秘義務のため持ち帰れないデータや資料。それらを頭の中だけで思い描いて、パソコンに齧りつくこと数時間。マグカップに口を付け、何も入っていないことに気付き、モニターの前から顔を上げる。

冬の空は陽が陰り始めていて、慌てて外に干してある洗濯物を部屋の中に入れた。すっかり冷え切った洗濯物は、干し始めた時刻が遅かったためまだ生乾きだ。室内の上方に取り付けてあるつっかえ棒へそのまま吊るし、進は再びモニターへ視線をやった。

「来年の学会に間に合うかどうか・・・このペースだと微妙なところだよな・・・。」

何度も電卓を叩きながら、結局進はそう結論付ける。何度計算しなおしたところで現実は変わらない。

実験で欲しい結果は得られているものの、再現に時間がかかるためサンプル数として十分ではない。人も機械も増やせないし、予算も限られている。機械の稼働率が低い研究室に応援を頼むにしても、肝心の人が割けないことには回るものも回らない。

「頼み込むしかないけど・・・。」

新商品の調味料を担当する研究室は、開発が順調だという話を聞いている。社内報で入ってくる進捗状況なら人手は期待できた。ただ人を引き抜くにも、各方面に話をつけておかなければならない。難関は営業部長の勝田だ。新商品に関連する話は企画と営業抜きで話を進められない。既存商品を単に微調整するのとは訳が違うからだ。

「やっぱり甲斐に頼むかな・・・。」

この路線を最後まで避けようとしたのは、自分のプライド。正直発揮する必要のないプライドだった。けれど貸しが二つあることも考えて、どうにか自分を納得させてみる。進一人で正面突破するのはどう考えても厳しい。幾度も繰り返し検証してみた結果、今のところこの答えにしか辿り着けていない。これ以上考えることだけに時間を費やすのは正直無駄だと言えた。

「週明けだな・・・。」

頼むにしても直訴するための資料が必要だから、今は頭の中だけで整理するしかない。もどかしさに負けて、二日酔いに悩まされているはずの甲斐へメッセージだけ入れた。

任せておけとすぐに返信はやってきたが、簡単にはいかないはず。きっと苦労させてしまう。彼だって年明けから抱えている仕事は多く、忙しいに違いないのだから。困った時はお互い様だとは言え、風邪引きと酔っ払いの代償としては幾分負担が大きいだろう。

「自分からは誘わないって決めてたんだけどな・・・。」

強固に築いていた壁を一部取り崩して、甲斐をご飯に誘おうという気になる。

端的なお礼と、今度飯でも、という一言を付け加えて甲斐へ返信する。すると律儀に、借りの二つはちゃんと返す、と寄越してくる。そして続けざまに、それはそれ、これはこれ、とメッセージが入り、進は携帯を見ながら目を細めて小さく笑った。










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話が停滞しはじめたなぁ、書けないなぁ、と思うたびに、キィに背後から睨まれている気がします。。。
待っててね、キィ。
君の話もちゃんと書くよ。
ちなみに、キィは男の子という設定です。

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