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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

それぞれの収穫祭【キィの場合】

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それぞれの収穫祭【キィの場合】

西のソウからムギが届いた。植物の茎を乾燥させて編んだ入れ物に、これでもかと大粒のムギが詰め込んである。西では一年に二度ムギが収穫できるらしく、荷車に積まれて王宮へとたくさん運び込まれた。

「キィ。ちょっとずつ食べてくださいね。」

フェイが入れ物に短刀を一刺し。パラパラとこぼれ落ちていくムギを器用に皿へと盛っていく。キィはフェイの肩でその様子をジッと眺めながら、主君の合図を待っていた。

「はい、今日の分ですよ。」

フェイがムギを盛った皿をキィの方へと差し出してきた。お許しが出たので、キィはフェイの肩から降りてムギを啄み始める。

しかしせっかく優雅な食事を満喫しようという時に限って、あの男は現れる。いったいいつになったら静かに食事を楽しませてくれるのだろう。

「フェイ!」

「世羅様、休憩ですか?」

こちらの意思を確かめることもなく無遠慮に扉を開いて入室してきた天帝に、キィは尾を向ける。今はムギに集中していたい。二人の毒にも似た甘い空気を直視するのは、素敵な食事に差し障りがある。

「後で宝物庫へ参ろう。そなたに素晴らしい織物が届いておる。」

「織物、でございますか?」

「水が冷たくなってきたから、良い色に染まっておる。そなたに、と東の商人が寄越したのだ。」

「そうなのですか。しかし、どなたでしょう。」

「そなたの知っている者からだ。」

「もしや・・・リリ様?」

「見てのお楽しみにしよう。」

世羅の言葉にはしゃぐ我が主君は、相変わらず難がなく素直だ。世羅はフェイの気を引きたくて仕方がない。フェイが喜んでみせれば、デレデレとだらしなく天帝の顔は締まりがなくなっていく。実に滑稽だ。しかしフェイが幸せそうな顔をするので、仕方なくキィは目を瞑って見ないフリをする。

「今夜は二人で燈火を見に王都へ出ようか。」

「本当に? それでは是非、カンさんとリョウさんにお会いしたいのですが。」

「フェイ」

「はい。」

「お忍びだから、それは許しておくれ。」

「そう、ですか・・・それは、残念でございます。」

キィはぐるりと首を回して、食事を中断する。世羅を睨み付けると、一瞬彼は怯んだような顔をしたが、すぐにキィから目をそらし、申し訳なさそうにフェイへ向き直る。

「また春に王都へ出る時、皆で会うといい。その時はたくさんの土産物を用意させよう。」

まったくこの男はなんて情緒に欠けることを。フェイは宿屋の店主とその奥方に、気兼ねなく会いたいだけなのだ。気安く心優しい夫婦との交流を楽しみたいに違いない。たくさんの土産物を差し入れてしまったら、恐縮されるばかりで、きっとフェイにとっても夫婦にとっても楽しい時間にはならないはずだ。

世羅にこう思うのは初めてではない。この男には著しく情緒というものがない。我が主君にふさわしくない。いい加減察して控えろと喚きたい心を、キィは唸り声に変えて抗議する。

「キィ、どうしたのですか?」

首を傾げて見つめてきたフェイとは違い、鬱陶しいものを見るかのような世羅の冷たい視線。

フェイと苦楽を共にしてきた我が心は強靭だ。邪険な目に晒されたとしても、恐れを成すことはない。攻撃を仕掛けないのは、心優しいフェイを悲しませないため。羽を広げながら唸り声を上げ、世羅を睨み付けて威嚇する。

「キィ、夕方までお散歩でもしましょうか。世羅様、申し訳ありません。おそらくキィにはこの王宮が窮屈なのです。飛べるところも限られておりますから。」

「そ、そうか・・・。」

「世羅様、夜、宝物庫へ伺いますね。」

「わ、わかった。」

勝った。

キィは己の抗議が受け入れられたことに満足し、胸を張ってフェイの肩を陣取る。悔しそうな世羅の視線を一身に浴びながら、優越感を身に纏ってフェイと共に部屋をあとにした。











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もうすぐハロウィン。
うちの子で祝うなら碧眼のメンバーで収穫祭だな、と思い至り、休憩時間にちまちま書き溜めております。
ハロウィンまでの短い間、碧眼の収穫祭、不定期でお届けしたいと思います。
その後は雪に囲まれた王都の年末~新年がタイムリーにお届けできればいいのですが(笑)
ゆるりとお待ちいただければと!

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