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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

百の夜から明けて12

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百の夜から明けて12

景気が良くないと言いながらも、神社にお参りし、お賽銭を投げる。そんな長年の習慣をこなさないのは居心地が悪い。しかし実家に帰った時にお参りを済ませるのが常だったので、一人暮らしの部屋から近い神社を知らず、出歩くかどうか一瞬迷う。

「でもなぁ・・・行かないのも気分悪いんだよな。」

進は携帯で一番近い神社を突き止め、すぐに腰を上げた。床暖房はいい。足元が温かいと移動するのが億劫だと思わないで済むからだ。お陰でここで暮らし始めてから、冬の怠け心とは無縁で過ごせている。

外へ出ると、元旦の今日、空は快晴だった。年の初めはやはりこうでなくては、と軽い足取りで近くの神社へ向かう。最寄駅からも神社へ向かうと思われる人の流れがすでに出来上がっており、もしかしたら規模がそれなりに大きいのかもしれない。

ずっと友人でいられる。年末の奇妙な二日間は進にそんな確信をもたらした。それでいいじゃないかと本心で思っている。友人でいれば、彼の好意は自分に向けられる。その好意が恋慕でなくても、好かれている心地良さを投げ出してまで、壊れる可能性を含んだ危険な賭けをする必要はない。

もう恋だけ追い掛けて、それが人生の全てだなんて言える歳じゃない。この世には手に入れられないものがある。むしろ手に入れられないものの方が多い。手にできないからといって不幸かと言われたら違うと進は断言する。

やりたいことを仕事にし、自分を認めてくれる人が周りにいて支えられてここにいる。それで十分。それ以上の贅沢を望んでは、全てを失いかねない。

「よぉ、今藤。」

「ッ!?」

肩を叩かれて振り向いてみれば稚拙な罠に引っかかる。肩に突き立てられた甲斐の人差し指が、ふにゅっと進の頬にめり込んだ。

「甲斐・・・。」

こんな人混みで会ってしまうなんて運命だと思って喜べば良いのか微妙なところだ。

人の流れに逆らうことなく歩みを進めつつ、進はわざと白けたような顔をして甲斐を睨んだ。

「あけましておめでとう、だろう?」

甲斐が楽しそうに笑いながら言うので、進は早々に睨むのもバカらしくなってやめた。

「甲斐、体調は?」

「大丈夫。もう完全復活したから。ホント、悪かった。」

本当にすまなそうに手を合わせて謝ってくるので、進は苦笑で交わす。

「まぁ、貴重な甲斐も見られたし。」

「貴重? 何が?」

「寝間着がまさかの水玉ピンクだったからな。」

あの二日の事を蒸し返されたら、寝間着の件を突っ込もうと決めていた。

「え? あれ、可愛いじゃん。ダメ?」

揶揄うつもりが、逆に真面目な顔で返されて、進は吹き出す。

「新年会で酒井たちに報告だな。」

「え? なんで?」

酒井たちに報告するのは二人きりの秘密を抱えることが妙な優越感を呼ばないか心配だったから。優越感が満たされれば、その先が欲しくなる。

「可愛かったよ、甲斐雅人くん。」

「今藤、なんなんだよ! それ、全然褒めてないだろ!」

「褒めてはいないな。遊んでる。」

ぎゃあぎゃあと男二人で戯れていると、人の群れの流れがゆっくりとなり、そしてついに歩みが止まった。まだまだ門まで遠い。門に入った後もだいぶ待つことになりそうだ。話し相手がいて良かったと思う。一人でこの長い列を待つ気にはさすがになれない。

「この神社、有名なんだな。」

人の多さに眉を顰めつつ進が問うと、甲斐が知らなかったのかよと呆れた声を返してくる。

「この辺じゃ、一番でかい神社だぜ? おまえ来たことないの?」

「ない。いつも実家の近くにある神社行ってたから。」

甲斐がそんなものかなと頷く。

「ここ商売繁盛が一番の売りだからさ。営業マンとしては、どうしても外せない。」

「へぇ、そういうの気にすんだ。」

「今藤って気にしなそうだよね。」

「とりあえず拝めればなんでもいい。別にお願いはしないし。」

幼い頃祖母から、神様には願い事ではなく、日頃の感謝を伝えなさいと口酸っぱく言われた所為で、ああなりたい、これが欲しいと念じるのは未だに抵抗があるのだ。

「え? せっかく来てお願い事しないわけ? 随分、欲がないんだな。」

欲のない人間なんているわけないだろう。仏じゃないんだぞ、と甲斐の言葉に苦笑しつつ、欲が全て消えてくれとは思わない自分がいる。何も欲しない人間なんてつまらない。諦めねばならないことも多いからこそ、手に入れられるものへ向かって全力で頑張れる。

諦めている最たるものがまさに甲斐との関係だ。年々近くなっていく関係に一線を引き続けるのは悪足掻き。近付き過ぎれば、手に入れられないことに我慢がきかなくなるかもしれない。壊してでも欲しいと自分は願ってしまうかもしれない。

今目先にあるもので欲しいのは課長のポスト。たぶんこれなら自分は手にすることができる。課長になれば自分の研究室を持つことができるシステムだ。そのためにも今手持ちの研究できちんと成果を出さなければならない。今年一年は勝負の年と言えた。

「なぁ、去年おみくじ何引いた? 今年こそは大吉引きたいんだよね。」

「いや、引いてないけど。小学生以来、そんなもん引いてないよ。」

「マジで!? お願い事しない、おみくじ引かない・・・おまえ、神社に何しに来てんの?」

甲斐のあまりの言い草に笑うしかない。

今年も甲斐との関係が平穏でありますように。

あえて願うならそれだけだろうと進は思う。その気持ちに偽りはなかった。










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