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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

百の夜から明けて11

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百の夜から明けて11

今藤にメッセージを送ったのは、あまりに暇を持て余しての出来心だった。本当に来てくれるだなんて思っていなくて。せっかく一人を満喫していただろう今藤を呼び出してしまったのは申し訳ない。しかしそう思う以上に嬉しくて仕方なかった。

熱を宿していた身体は一夜明け、微熱を残すのみだった。好きなやつが自分の部屋の一角に陣取っているかと思うと、それだけで感動する。好きだと思う気持ちは侮れないなと思う。

けれど、今藤に泊まっていくかと聞いてしまったのは、失敗だったと思う。浮かれ過ぎていた。今藤は気にも留めずに流してくれたけど、彼が変な勘繰りを働かせてしまうようなことがあれば、自分たちの関係にヒビを入れかねない。

せっかく今藤の近くにいられる。同期で一番仲が良いのは自他共に認めるところだ。その読みは雅人の過大評価などではないだろう。その関係にヒビを入れる。雅人にとって何よりも耐えがたいことだった。

今藤が離れていくことを考えなければならないなら、自分の気持ちなど伝わらなくたっていい。ずっとこのままでいい。片想いでもなんでも、好きでいることを許されるなら、決して悪くはない。

今藤が買ってきてくれたスポーツドリンクの蓋を開けて、グラスに注ぎいれる。雅人の体内に未だ燻る熱が水分を欲していたから、ペットボトルは一晩で空になった。朝方トイレに起きると、携帯が着信を告げて点滅していた。見ると今藤からで、彼らしい端的なメッセージが入っている。大丈夫か、と心配する言葉と、欲しい物はあるかという気遣い。

体温計で測ると、すっかり熱は下がっていた。けれど今藤を独り占めしたい欲求に雅人は負けた。呼べば朝から晩まで今藤がいてくれるかもしれない。それは酷く魅力的な誘惑だ。

雅人は今藤に昨日と同様にスポーツドリンクと食べ物をお願いした。雅人からのメッセージを待ち構えていたかのようにすぐにやってきた今藤からの返信に、雅人は頬を緩める。本当にささやかな幸せ。風邪を引いて良かったと思うのは今までで初めてだ。

伸びをすると節々が痛む。本当に風邪なんて久しぶりで、熱を出して関節痛がくることに自分の年齢を感じさせられる。熱が下がったからといってスッキリとまでいかないのは、やはり二十代の頃にあった体力が今の自分にはないからだろう。

このまま、今藤に片思いしたまま、自分は年を重ねるんだろうか。あるいは劇的な出会いでもして、誰かの腕に収まる日がくるんだろうか。男に抱かれることに慣れた身体は、女を抱くことに対して違和感をおぼえる。生活が変わればまだしも、このまま転職する気もなければ、生活圏を変える気もない。劇的な出会いなんて期待できず、このまま朽ちていくと考える方が自然だった。

寂しい。時々強烈にこみ上げてくるその想いが、自分で敷いたレールから踏み外してしまえと悪魔の囁きを寄越してくる。言ったら終わる。自分がもっと無鉄砲な性格で先を考えない性格だったら、もっとあっけらかんとしていられたのか。

今藤から拒絶されることは想像するだけで恐ろしく、考えることすら全身が拒む。

追加で届いた今藤からのメッセージは、熱はどうかというシンプルな問いだった。嘘をつくのは憚られたので、熱は下がったが身体が怠くてまだ動けそうにない、とそれらしい返信をした。雅人の言葉に、今から向かう、とだけ返してきた今藤に、みっともない姿を見せたくないというプライドが湧いて出て、熱で洗うのを避けていた髪も今日は丁寧に湯を通した。


 * * *
昨日までは熱もあって、あまり部屋の状態にまで気を配れなかったが、普段から綺麗にしておいて良かったと心底思う。今藤に自分の悪い部分を見せたくない。恋人にでもなれれば素の自分を晒すという選択肢も出てくるが、片思いの段階でそこまで厚かましく甘えて晒す度胸は雅人にはなかった。

「昨日より、顔色いいな。」

「俺、そんなに酷い顔してた?」

「酷い、っていうか、疲れた顔してたよ。他は? 熱以外。」

「大丈夫。ホント、悪い。マジで助かった。」

上げられた今藤の手が雅人の肩に着地してポンポンと優しく叩いてくる。そしてベッドへ促された。

「なんか、関節痛くてさ。」

「ジジイだな。」

今藤が遠慮もせず吹き出して笑う。雅人もわざとらしく顔を顰めて、酷い言い草だと抗議した。

「昨日と一昨日はひたすら寝たかったんだけど、今は身体の節々にきてる所為で、かえって寝てるのがつらくて。」

「俺、いない方がいいんじゃないか。」

呆れたように苦笑してきた今藤へ即座に否定する。

「つまんないじゃん。外出られる感じでもないし。」

「俺はおまえの暇潰し要員かよ。ガキか。」

「悪かったですね。甘えん坊の末っ子なもんで。」

シャワーを浴びてすっきりしていたので、今日は今藤の方へと近づく勇気が自然と湧く。

「なぁ、おまえんとこの研究室、年末何の研究でごたごたしてたわけ?」

「企業秘密。」

「俺も社員なんだけど。」

「ダメなもんはダメ。研究員以外の人間には、物も情報も持ち出し禁止。」

「はいはい。ケチだなぁ、おまえ。」

仕事の話を振ったのは、プライベートな話に足を突っ込んで地雷を踏みたくなかったからだ。今藤の地雷というより、雅人自身の保身だった。

今藤は研究内容を教えてくれることは規則上ないが、研究室での人間模様はよく口を割ってくれる。営業として仕事に役立つこともたくさんあるから聞いていて損はないし、なにより今藤自身が楽しそうに話してくれる。二人きりになった時、今の自分たちを継続するには適格な話題だった。

「そういえば、研開メンバーでやる飲み会の話は進めてくれた?」

「あぁ、それか。進捗状況にもよるけど、年始の第二週辺りはどうだ? 多分、金曜にはなると思う。まだ課長が調整ついてなくて。」

「お、仕事早い。第二週は大丈夫。俺も金曜の方がありがたいな。」

「じゃあ、課長にもそう言っとく。」

「サンキュ。上田くんと話すの楽しみだなぁ。話だけは散々おまえから聞いてるからさ。」

「根が真面目なやつだから、あんまり弄り過ぎんなよ。本気にする。」

上田が少し羨ましい。今藤に大事にされていることがわかるから。自分は同期だから、そういう気の使い方はされない。羨ましくて、少し苦い気持ちが湧いてくる。けれど嫉妬という言葉が頭に浮かぶほどではなかった。

「今藤と違ってピュアなわけね。」

いつも通りに茶化すのが成功したと自己満足に浸っていたら、今藤から思わぬ横やりが入る。

「酒井に新人教育の資料、間違ってシュレッダーかけたのおまえだって、バラすぞ。」

「おまえ、卑怯なんだけど。っていうか何で知ってんの!?」

「さぁ、何でかな。」

雅人には雅人の人脈があるように、今藤には今藤のパイプがある。一本取られたと今藤を睨みつけると、今藤は雅人が好きな殊勝な顔をしてみせた。






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10月10日、体育の日。
はりきってテニス→バドミントンと励んでまいりました。
先日、昭和新山と洞爺湖(北海道)を見るために有珠山へ。
上りはロープウェイでしたが、
下りのみ一時間ほどかけてハイキング。。。
筋肉痛だったところにこのたびの運動を重ねたため、激痛でして(笑)
身体の衰えを感じています。
差し入れでいただいたシート「休足時間」が大活躍しております。
感謝感謝です!

明日から仕事が通常運転に戻りますが、なんとか筋肉痛と戦いながら乗り越えたいものです。




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