忍者ブログ

とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

二人だけの慰労会3

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コメント

ただいまコメントを受けつけておりません。

二人だけの慰労会3

実は半年近く前から部屋を押さえてあったということを、雅人が今藤に言う日は永遠に来ないだろう。

計画が無駄にならなくて良かった。今藤が実家に帰るか否かは直前まで確かめる度胸がなかったから、縁もゆかりもない場所で一人寂しく温泉だなんていう結末も有り得たのだ。

湯気の立ち込める湯畑の周囲を歩きながら、手を繋ぐわけでも、肩を組むわけでもない。目の前ではしゃぐカップルのように写真を撮り合うわけでもなく。それでも好きなヤツと並んで歩いているという事実が雅人には嬉しくて仕方がなかった。

寒い中をゆっくり歩くなんてことを日常生活ではしない。時間に追われて忙しなく動き回るのが常だ。

湯畑のすぐそばにある足湯の前までやってきて、男二人で肩を並べて足を突っ込み、安堵の溜息をつく。

「あぁ・・・すげぇ、いい。あったまる・・・。」

雅人が声を上げて天を仰ぐ。ちらりと視線を横へやると、今藤もまんざらではなさそうだ。新宿から草津のバスターミナルまでバス移動だったから、大柄の今藤は足も伸ばせず、さぞ窮屈だっただろう。隣りで今藤が足を真剣に揉み解し始めたので、計画に欠陥があったなと少し申し訳ない気分になる。

「ごめん、新幹線の方が良かった?」

「いや。どうせバスは乗るだろ。直行の方が寝られるし。俺の場合、新幹線でも大して変わらない。」

「そう?」

人前だからくっつくわけにもいかないけれど、職場の近くではないからお互い気は緩んでいると思う。いつもより心なしか身を寄せる距離が近い。触れるか触れないかで拮抗している手の距離も、雅人の胸を高鳴らせていた。

「出たくなくなるな、ここ。」

「だな。」

一緒に足を浸けている幾人かは家族連れだったり、カップルだったり様々だが、皆一様に似たようなことを口にしている。上半身は雪が薄っすら積もるほどの寒さに晒され、一方足は湯に包まれて温かいものだから、丁度良い体感温度となり、いつまでも浸かっていられる。天国がこんなところだったらいいな、なんて思うくらいには極楽な空間だ。

「すぐ行ったところに喫茶店あるみたいなんだけどさ、そこ、ケーキ旨いってよ。」

さりげなく話を振ったつもりだったが、今藤のためにリサーチしたことが筒抜けだったようで、隣りで肩を震わせて堪えるように笑う。

「なんだよ。」

「いいや。なかなかいいご褒美だな、って思っただけ。」

「だろ?」

「ああ。」

こんな人前で今藤の言動に赤面したり食ってかかるわけにもいかない。照れ隠しに口を尖らせながらも、あらゆる衝動を堪えて今藤に同意する。ある種の開き直りだ。

付き合って、もうすぐ一年。今藤は出不精ではないものの、特段好んであちこち出回るたちでもないことがわかった。誘えば来るけど、どちらかというと自分のテリトリーで好きなものに囲まれていたいタイプ。

一方の雅人はというと、好きな人を連れ回して遊び倒したい性分。夏休みを揃って取る事はほぼ不可能だから、年末年始くらい遠出してみたかった。

「誰かさんは随分可愛いことするよね。この後も期待できそうだな。」

「口閉じろ。」

この男は、バレるかバレないかの際どいラインで話をするのが本当に好きだ。そして雅人が慌てふためき青褪めていることをわかった上で楽しもうとする。何度抗議しても一向に雅人の焦りは汲んでもらえない。過剰に反応することこそ今藤の望むところだから、諦めるより他ないのだけれど、彼のように図太い神経をしていないので、放置することができない。

「夜、浴衣だったら最高だな。」

何が最高なのか、問うてしまえば思うつぼだ。聞かなかったフリをして温泉に浸けた足を見つめていると、大きな足が寄ってくる。するりと撫でて去っていく足に、雅人は身体を硬直させる。

「ちょッ・・・」

「何?」

微笑んでいる今藤は、本当に楽しそうだ。雅人の焦った顔に満足したらしい。

結局どこへ行ってもこの男のペースであることに変わりはない。隣り合わせていた手に、さりげなく小指を絡ませてくるのは確信犯だろう。しかし過剰な反応を見せれば、周囲に不審な目で見られることは間違えない。こんな人前で煽ってくること自体、酔狂としか思えないけれど、結局好きだという気持ちの前に敗北する。

「・・・あがろ。」

「出たくないんじゃなかったのか。」

「ホテル、もうチェックインできる時間だし・・・。」

効力のない言い訳をして、余計に恥ずかしくなる。

「ケーキは?」

「・・・明日。」

堪えるように笑う今藤の背中を足蹴りして、雅人は濡れている足を乱雑にハンドタオルで拭う。

「上がると寒いな。」

今藤の言葉に同意せずにそっぽを向く。夜まで仕舞い込んでおこうと思った熱を燻られて、寒さを感じないほど羞恥心が心を占めていたからだ。

「ホテル、どっち?」

「もう黙ってろ。」

今藤の声を聞いているだけで、身体は駆け上がってしまいそうで雅人は焦る。肩を並べず今藤より前を歩いて、どうにか宿まで熱に呑み込まれないよう必死に前進した。









いつもありがとうございます!!
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
B L ♂ U N I O N


Twitter
@AsagiriToru
朝霧とおる
PR

コメント

プロフィール

HN:
朝霧とおる
性別:
非公開

P R

フリーエリア