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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

祝い酒6

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祝い酒6

大きな酒壺を抱えて薬師たちが庭と酒造場を忙しなく行き来する。祀り棚に供える壺の数は決まっていないが、上段に薬師の壺、中段から下段にかけては各地から奉納された壺が綺麗に並べられる。

「ルウイ、そちらはどうですか。」

「まだ十ばかり。」

「それは明日にしましょう。もう日が暮れて足場も見えにくいですから。」

フェイの隣りで大きく息を吐き出したのはレイだ。自分の身体より大きな壺を抱えて朝から晩まで彼も働いてくれた。祀り棚に並んだ壺は圧巻だ。特に各地から集められた酒壺は、それぞれ趣向を凝らして、ここへ供えるためだけに誂る。土選びから始まり、植物や鉱物から抽出した色で着彩し、土の性質に適した温度で焼かれている。

「フェイ様、陽が隠れてしまいますね。」

「レイ。身体を冷やさぬうちに中へ入りましょう。」

「はい。」

「今日はよく働きましたね。たくさん食べて、たくさん眠りましょう。」

褒めて頭を撫でると、レイは照れたように見上げてくる。レイの手を取ると、小さな手のそこかしこに水疱ができていた。その内のいくつかは皮が破けて血が滲んでいる。

「レイ、痛かったでしょう?」

「いいえ。」

「本当に?」

「・・・少し、だけ・・・。」

念を押して尋ねてみると、レイが観念して正直に告げてくる。

無理をさせていたかもしれない。張り切って働いてくれたから、見落としてしまった。つらいということを決して口に出さないから、気付くのが遅れてしまう。フェイはレイの手をそっと自分の手に包み込んで、心の中で至らない自分を悔いた。

「消毒をしましょう。明日は手の痛まない仕事にしましょうね。棚掃きはどうでしょう。」

「フェイ様のお手伝いができないのはイヤです・・・。」

手を痛めて、役に立たなくなってしまったのではないかと落ち込んでしまったレイに首を振る。

「棚掃きは塵一つ残せない大役ですよ、レイ。」

「・・・本当ですか?」

「ええ。だから傷を治して、明日も励みましょう。」

「はい。」

心配そうに眉尻が落ちた顔がようやくフェイの言葉でもとに戻る。小さい弟子は大役だと言われて納得したらしい。

空で甲高い鳴き声が交差する。ねぐらに戻ろうと薬師たちの国鳥が声を掛け合っているのだ。

「キィ様は綺麗ですね。そしてとても堂々としてらっしゃいます。」

レイの見上げる視線の先には、キィが大きな羽を広げて優雅に先頭を舞っている。レイはまさしく尊敬の眼差しを向けていたが、フェイは彼の言葉に口元を緩める。

キィは薬師たちが手なずけている国鳥の中でもなかなか我の強い方だ。己の意志を持ち、一国の主に歯向かっていくくらいなのだから。美しく誇らしい、頼りになる存在。誰よりもそばにいる相棒であり、その関係はどちらかが天に召されるその日まで変わらないだろう。

暫し、国鳥の饗宴を眺め、赤く焼けた空が闇に飲まれる頃、ようやく一同は温かい王宮へ身を収めた。


 * * *


眠気まなこを擦りながらレイがなかなか寝付いてくれない。頑なに寝ようとしないので何故かと問うたが、眠くありませんと突っぱねるだけだ。寝台の横についてかれこれ半刻、フェイは途方に暮れていた。

窓の外からコツコツ叩く音が聞こえてくる。こんな時分にキィが訪ねてくるのは珍しい。キィを迎え入れようと手を伸ばしたが、キィはフェイを素通りしてレイの寝台へ舞い降りる。

「キィ様!」

レイが飛び起きて声を上げる。何事かと思い様子を見届けていると、キィはいそいそとレイの寝台に潜り込んでいく。

「フェイ様、今宵はキィ様と寝ることにいたしました。」

たった今決めたかのような言い方だったが、そういえば今朝、レイがこそこそとキィに話し掛けていたことを思い出して合点がいく。小さい弟子はキィと約束をしていたらしい。しかし本当にキィが来てくれるか確証がなく心配だったので、フェイに言い出せなかったのだろう。

フェイは笑みをこぼしそうになるのをどうにか堪え、努めて神妙な面持ちでレイに頷き返した。

「ゆっくり休むのですよ。」

「はい。」

弾む声が返ってくる。キィの登場でかえって目が冴えてしまったのではないかと心配になったが、どうやら杞憂だったようだ。キィの温もりは魔法の眠り薬となって、フェイが扉を閉める頃には健やかな寝息をもたらす。フェイは安堵の息をついてレイの寝室をあとにした。










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