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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

祝い酒1

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祝い酒1

草の根と茎、葉を分けて、それぞれの硬さに合わせて湯に通す。数時間かけて少しずつアクを取って、ようやく湯が透き通る頃には陽が傾き始めていた。
「さぁ、お酒に漬けましょうか。」
「はい。」
小さな身体を大きく動かし、興味津々といった具合にフェイの作業を覗き込んでくるのはレイだ。
歳は五つ。まだ慣れぬ王宮の生活を受け止め、淡々とフェイの後をついて回るだけだった彼が、ここへ来て初めて目を輝かせたのは、年越しの棚飾りに供える薬酒を作る工程だった。
道具や草花をフェイが一つひとつ手に取るたびに、これは何かと尋ねてくる。よほど気に入ったらしい彼をそばに置き、フェイはレイの興味が向くままに丁寧に説明してみせた。
「フェイ様、この赤や黄の粉は何でしょう。」
「薬味ですよ。シンビ国のあらゆる場所で取れた実をすり潰して、こういった粉にするのです。調合によって、料理に使ったり、薬にもなるのです。少し手に取って舐めてご覧なさい。」
「はい。」
小さな指で赤い粉末を摘み、恐る恐る舌に乗せるレイに微笑んで頷く。
「甘い・・・。」
「それはジイクという果実を乾燥させて粉末にした粉です。南の方でしか採れない実なのですよ。熱を宥めてくれる効果があります。」
レイが並べてある粉末の味当てがしたいと言い出したので、フェイは陶器で出来た異国の淡い青皿に小さな匙で掬い取って粉末を並べていく。その様子を見たレイは、空に掛かった虹のようだと嬉しそうに眺めて笑ってみせた。
笑わず、涙も見せぬ小さな弟子を心配していた。しかし幼いなりに家族を亡くした痛みを受け止め、乗り越えようとしているのだろう。
薬師として生きていく道を得た彼は、これから長い間修練を重ね、いずれは一人で生きていかねばならない。小さくとも自尊心はある。しかし自分のそばにいる時は、せめて心を解き、己の願望に嘘をつかずに生きてほしいと思う。彼の中に宿る想いは彼だけのもの。レイの人生は彼以外に歩める者がいないのだから。
「フェイ様、それは何でしょう。」
「これは重さを計る道具ですよ。」
「お手伝いしてはいけませんか?」
「ではこの匙で掬って、重石の乗った皿とこちらの皿が同じ高さになるようにしてご覧なさい。」
昔、フェイもレイのように、師匠のやる事なす事全てをやってみたいという好奇心で溢れていた。大事な仕事だが師匠がその好奇心を無碍にせず受け止めてくれたことが、今ある知識の土台となっている。
師匠がしてくれたように、今度は自分がレイの可能性を広げてやりたい。人を一人、立派な薬師にするという大役。まだ心が馴染めていないというのが本音だったが、出来る限りのことをこの弟子にしてやりたいと思う。
火柱の上がる家を呆然と見つめていた彼をただ抱き締めてやることしか出来なかったけれど。少しずつでいい。レイの悲しみが癒えて、今を精一杯楽しめるようになってくれることを、寄り添うことで果たしたい。
世羅はしきりにレイの様子を気に掛けている。しかしレイは世羅のことが畏れ多いらしく、フェイの影に隠れてばかりだ。
「フェイ、ここにおったのか。」
「世羅様。ご公務はよろしいのですか。」
「堅いことを言うな。すぐに戻るつもりだから。」
「皆様がお困りになりますよ。」
また公務を中座して来たのだとしたら、臣下の一人として窘めなければならない。
慎重に匙を操っていたレイは世羅の登場に身体を強張らせている。せっかく楽しそうだったレイが萎縮してしまったことを残念に思い、こればかりは仕方がないと、フェイはさりげなくレイのそばへ寄って立った。つい先刻まで、レイにとって世羅は遙か遠い天そのものだったのだ。
「レイ、続けて構いませんよ。」
「はい・・・。」
レイの手を取って、驚きで止まってしまった手に続きを促す。心配そうに見上げてきた瞳に和やかに微笑んで、フェイはレイにひとつ頷いた。
「フェイ、何故昨夜もその前も、寝間へ来てはくれないのだ。」
世羅の懇願するような瞳に困惑する。小さなレイの前でする誘いではない。もちろん意味はわからなくとも、どう言い訳をしてレイのそばを離れるかも悩みどころだ。
「世羅様、しばらくそのような事は・・・。」
「しばらく、とは? 春まで待っていたら、そなたは・・・またここからいなくなってしまうではないか。」
「レイのいる前でそのようなお話はおやめください。」
世羅が傷付いた顔を見せたのは一瞬。すぐに激情を抱えた顔へと変わって、早足でフェイの前に寄って立つ。
「もう十分待った。今宵も来ないと言うなら、私から参ろう。」
「せ、世羅様・・・。」
「ではな。」
忙しい公務の合間に来たようで、世羅はフェイに言い切るなり身を翻して去っていく。
「フェイ様・・・。」
「ッ・・・。」
「フェイ様は世羅様にお会いするのがイヤなのですか?」
不思議そうに見上げてきたレイについ赤面する。こんな事ではいけないと思うのに、冷静になるまで少しばかり時間が掛かった。
「世羅様も私も仲が良いものですから、春が近付くたびに寂しいのですよ。つい喧嘩をしてしまいます。レイは気にせずとも良いのです。」
つい言い訳がましくなってしまった自覚はある。けれど幼い彼はさほど疑問には思わなかったようで、すっかり緊張の解けた身体で、また楽しそうに作業の続きに取り掛かった。









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それぞれに垣間見える寂しさと温かさ。
弟子レイの登場で世羅とフェイがどう人として成長するのかも小出しにできていければなと思います。
全何話になるか相変わらず未定ですが、年末までギリギリ続くかどうか、というところだと思います(適当・笑)

皆さま、寒い日が続きますが、体調にはお気を付けてお過ごしください。
私はようやく時差ボケから完全復活をいたしました。

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