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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

碧眼の鳥9

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碧眼の鳥9

国鳥が空を舞う。列を成して主の命に従い、華麗に皇太子生誕祭の先陣を切った。いつもは床に臥せている理世も、理世と世羅とは腹違いの弟、羅切(らせつ)も同席した。

薬師たちは王族の背後に控え、王宮前の広場に集まる群衆を温かい眼差しで見守っていた。

今年も春がやってきた。世羅の生誕祭は民を盛り上げるに相応しい時期で、臣下たちにも好評だ。絶え間ない楽器の音色や舞が繰り広げられるのを見て、フェイも弾む気持ちを隠さず、手を幾度も叩いて感嘆した。

「フェイ、そちの準備は万全かな?」

「はい。キィとたくさん練習しましたから。」

胸の動悸でも起こしそうな芸の数々を眺めていると、長のライが声をかけてくる。これから薬師たちが、世羅の前で国鳥たちにもうひと仕事させて宙を彩る。

今年の演目は虹。煌びやかな羽根を持つ国鳥を舞わせるには相応しい題材だ。

フェイが口笛でキィを呼び寄せると、群衆に賞賛を貰って機嫌の良さそうな様子でフェイの肩に収まる。背を撫でてやると、嬉しそうにコロコロと鳴いた。

後でたくさん褒めてやらなくては。世羅への贈り物が成功したのも、キィのおかげと言える。虹の舞でもキィは先陣を切るのだから、今回の王都帰還は大活躍だ。

「キィ、頑張ろうね。世羅様に元気になっていただかなくては。」

応えるようにキィが甲高く空へ向かって鳴く。すると他の国鳥たちも一斉に声を揃えて鳴き始めた。

「はじめましょう、ライ様。」

「そうしようか。」

ライが手を挙げて合図を送ると、薬師たちが一斉に相棒たちを空へ送り出す。幾重にも連なる国鳥たちの虹。その圧巻の姿に、世羅たちも群衆も息を呑んで見つめた。


 * * *


世羅には内緒だと言われて理世の病床へと入る。理世の顔は王都へ帰還し、久々にその御顔を拝んだ時と同じように、お世辞にも調子が良さそうには思えなかった。

「フェイ、そんな畏まらずに、もっと近くへ寄りなさい。そなたの健やかな顔が見られないではないか。」

「理世様、お加減がよろしくないのではありませんか? ご無理は良くありません。」

「そう堅い事を言うでない。もうどのみち長くはないのだ。望むようにさせておくれ。」

気高く、心優しい天帝。彼はどこか遠くへ激情を置いてきたような人だ。いつも遠くを見ているようで、こちらの足元が危なくないか見守ってくれる兄のような人。天帝を兄などというのは失礼にあたるかもしれないが、フェイにとっては幼い頃からそういう存在だった。

「フェイ。そなたに頼みがある。」

「どのようなことでしょうか。私にできることであれば、いくらでもお申し付けください。」

畏れ多くも座るように促され、困った挙句、フェイは部屋の端にある椅子を持ち寄って、寝台のそばに腰を下ろす。その様子を優しい眼差しで見守っていた理世は、不思議そうな顔をしながらも微笑んでくる。どうやら失礼にはあたらなかったようだと安心し、背筋を伸ばして理世の話に耳を傾ける。

「世羅のことだ。」

「世羅様、でございますか?」

「そして羅切のこと。」

「・・・。」

理世と世羅は仲睦まじい兄弟だが、羅切のことをあまり二人の口から聞いたことがなかった。同じ王宮にいるということ以外、知っていることはほとんどなく、その姿を目に入れることもなかなかない。

「世羅には悩みがある。今、あやつの心は揺れていて、大波が来ているのだ。しかし、いずれにせよ、答えを出さねばならぬ日はくる。」

まるで理世は世羅の悩みの正体を知っているような口ぶりだ。知りたい欲求はあるものの、天帝を問いただす度胸はない。

「どんな答えを出したとしても、世羅を受け止めてやってほしい。世羅のことは、そなただけが頼り。そなたにかかっている。」

天帝にそこまでの言葉をかけられて、否とは言えない。もとより、ずっと世羅に寄り添い、力の限り彼の望むものを叶えたいと思っている。

理世にしっかりと頷いて、天帝の遺言とも取れる言葉を胸に刻む。

「羅切は世羅を恨んでおる。」

「なぜ、で、ございましょう・・・」

恨むなどと恐ろしい言葉を理世の口から聞き及んだのは初めてかもしれない。いつも穏やかな人だからだ。

「正妻の子として先に生まれ、すべてにおいて世羅が優れている。」

「けれど、そんなことで・・・」

「ある種の人間にとっては、それだけで十分恨む理由になるのだ、フェイ。」

「私にはとても恐ろしいことに思えます。」

「そうだ、恐ろしい。羅切は気性も粗く、残忍だ。邪魔だと思えば、きっと迷わず世羅を殺そうとするだろう。」

息を呑んで理世の言葉を聞き、手足が震えてくる。

王宮が血に濡れた場所だと知識ではわかっている。他国を旅していても、そういう話を耳にするのは珍しいことではない。けれど我が身の前に降りかかってくると、いかに恐ろしいことかと実感してしまい、どうにかして世羅を守らねばという志が湧いてくる。

「どうか民のためにも、世羅を守ってほしい。」

「理世様・・・この身に代えても必ずお守りいたします。」

「世羅のために命を賭けると?」

「私が盾になれるのならば、必ずや。」

「・・・世羅は私を憎むだろうな。」

「なにゆえでしょう?」

「いや、なんでもないよ。」

理世がそのまま口を閉じ、首を振るので、世羅が理世を憎むべき理由がわからない。弟想いの良き理解者だと思うのに。

「フェイ、そなたがいてくれてよかった。そなたの幸せを祈っておる。」

「そんな・・・今生の別れのようなことを、おっしゃらないでください。」

「フェイ」

「・・・。」

手を握られて、胸が痛いほど跳ねる。目の前にいる、兄のように慕った人が、次どんな言葉を自分にかけようとしているのかわかってしまったからだ。

こらえきれず、気付いた時には雫が幾重にも重なって、二人の手の甲に落ちた。

「どうか、この国を頼む。」

「理世様・・・いけません。弱気な、ことを・・・ッ・・・」

「そなたに会うのは・・・今宵が最後だ。」

「ッ・・・ッ・・・」

「さぁ、こちらへ来て、そなたの顔をよく見せておくれ。」

「理世様・・・理世様・・・」

誰かを喪う寂しさは、もう幾度か経験した。だからこそ、その死が一様でないことも知っている。

泣いてはいけない。そう思えば思うほど、涙が溢れて止まらなくなった。

夜が更けていく。哀しい、寂しい夜。

フェイはキィが舞い戻ってくるまでの間、ずっと理世の温かい腕に抱きつき、心ゆくまで別れの雫を落とした。















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