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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

碧眼の鳥10

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碧眼の鳥10

目の周りが熱を持ったように熱い。泣き腫らしたフェイの肩にキィが乗り、宿屋への帰り道、ずっとキィは心配するように頬擦りしていた。

「キィ、なぜ見送るのはこんなに辛いのでしょう。」

夜道は暗く、家の灯りもほとんど消えていた。星々の光だけが頼りで、寂しさが余計に込み上げてくる。

「自分が死ぬのは怖くないのです。けれど理世様や世羅様がいなくなると思うのは、恐ろしくて・・・この世のすべてがひっくり返ってしまうように感じるのです。」

理世の腕の中で出しきったと思った涙の雫が、またジワリと浮かび上がってくる。フェイは慌てて深呼吸をして、なんとか溢れるのをこらえる。

キィがせわしなく頬擦りをしてきたので、相棒にこれ以上心配させてはいけないと思い直し、すべての想いを振り切るように満天の星空を見上げた。

天が導くようにしか生きられないのだとするなら、あんなに素晴らしい人をこの世から奪ってしまう天のお考えがわからない。けれど小さなこの身でできることをしていくしかない。

理世から任された世羅のこと、そして民の病を癒していくという自分の本分を胸に刻んで、これから先、生きていこう。

このまま宿屋へ帰れば、目の腫れた自分をカンやリョウは心配するだろう。そう思ったら、足の歩みは次第に遅くなっていき、ついにフェイは立ち止まってしまった。

「・・・キィ、朝までお散歩しましょうか。」

相棒に努めて明るく言う。するとフェイを励ますように、キィも鋭い声を上げて夜空に鳴いて応えた。


 * * *


臣下を動かすすべての権限は天帝にある。世羅が代理を務めて告示した内容に、宰相以下まつりごとに携わる者たちは一様に肩を落とし、軍事を司る者たちは活気付いた。

世羅の生誕祭に間に合わなかった娘が、ようやくこの王都へ近くなったというこの時に、天帝から世羅へ、遠征の命が下されたのだ。

宰相は天帝に今しばらく待つよう懇願したが受け入れられることはなく、世羅の西行きは決まった。

軍を動かすといっても、主に目的は土木工事だ。役人の横暴で痩せてしまった土地に活気をもたらし、人々がそこで満足に生きていくための整備を指揮する。それが世羅の一番の仕事だった。

「キィ、世羅様は凄いですね。ご自分の目でご覧になって、整備の計画もされるそうですよ。」

出陣の旗が王宮の塔に高々と掲げられ、王都の大通りも人で溢れかえっていた。大通りを出陣する兵士たちが行進するからだ。激励しようと集まった人たちを、少し遠くの高台からフェイは眺めていた。

兵士が出陣する時、薬師の誰かが同行するのが一般的だ。慣れない土地に、慣れない生活。兵士たちの疲れは病に通じやすい。

西の地へ辿り着くまでは別の薬師が同行し、滞在の半分の日程が過ぎたところで、フェイが現地入りし、王都帰還までを世話することになっていた。

今回の遠征は王族自らが動く。薬師の半分を割こうと提案したのはライだったが、いよいよ末期に入った理世のために世羅が固辞したのだ。

よって残りの薬師たちは遠征が終わるまで、代わる代わる王都と旅先を行き来し、王宮に残された理世の世話を買って出た。

薬師は武術にも長けている。薬師だけに伝わる体術と剣術を身につけ、自分の身は自分で守るように幼い頃から教え込まれている。それはフェイも同様だった。

「無事にこの遠征が済むように祈っていましょう。」

キィが胸を張り、誇らしげに虹色の羽根を広げ、肩から飛び上がる。

「キィ、行きましょうか。」

キィが甲高い声を上げて上空を舞うと、出陣を讃えるように、国鳥たちが四方から折り重なって声を上げる。

座り込んでいた高台から腰を上げ、フェイは荷を背負って歩き出す。それと時を同じくして、大通りから歓声が聞こえてきた。世羅が先陣を切って現れたのだろう。

その声を心地良く聴きながら、フェイは軍の兵士たちとはあえて離れた道を選んで進む。何かあった時、薬師の二人が共倒れにならないため、一緒に歩いたりはしないのだ。

世羅とはしばしの別れだが、不安に心が揺らぐことはなかった。

「世羅様はシンビ国随一の剣豪ですから、きっと心配ありませんね。」

少し先を行くキィに声をかけると、その通りだと答えるように、相棒が一声鳴く。西までの道のりは長い。人の心配ばかりして気を小さくしたりせず、おおらかに構えていけばいいのだ。

王都の門をくぐる時、フェイは一瞬立ち止まったものの、かろうじて振り返りたい衝動をこらえた。

そして快晴の空を見上げ、この国で一番天に近い大切な人へ、心からの別れを告げた。














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