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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

碧眼の鳥11

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碧眼の鳥11

橋は脆く今にも崩れそうで、役人の不正な搾取に喘いでいた民は痩せた土地に困窮していた。王都から持ち寄った食糧と、土地を富ませるための種や肥料は、民を活気づかせた。

「酷い有様だ。」

報告書で見聞きしていた様子とはあまりにかけ離れている。

「でも、一からやるのは、やりがいがあるものだな。そうは思わんか?」

「その通りでございますね。」

やはり王宮に引きこもっているのは良くない。こうやって木々が風になびく音を聴き、土の匂いを感じれば、生かされている自分を感じられ、悩みが小さなものに思える。

「ルウイ、民の様子はどうだ?」

「あまり健康状態が芳しくありません。口にしている畑のものも、去年の凶作で痩せたものばかりなのです。まずは民が栄養をつけませんと、良い仕事も叶わないでしょう。」

「施しを与えることは容易くても、己の力で立っていかなければ、先が見えずに崩れてしまう。何を植えるのが適していると思う?」

薬師はそれぞれに得意としている分野が違う。ルウイは薬師の中でも若手だが、畑仕事に精通していた。

同じ作物を植え続けると、土地は養分が偏り痩せてしまう。案配を考えて作付けを考えなければ、土地が死んでしまうこともある。

そういう意味で、この青年を配した長のライは的確な判断をした。そして兵士たちが疲れを覚え始めたところで病や薬草に関して知識のあるフェイを寄越すのも、素晴らしい采配といえた。

「ナとコイモが良いでしょう。ナは痩せた土地でも根付き生育が早い。しかも栄養があります。根の周辺に水分と栄養を蓄えますので、土地を豊かにするという意味でも適しています。コイモは民の腹を満たし食べ応えがあります。時期も今植えるのが頃合いなので良いでしょう。」

「民の先頭に立って作付けの指示を出して欲しい。薬師が上に立つと民も安心するだろう。そなたの働きに期待している。」

「承知いたしました。」

ルウイは素朴で口数の少ない青年で、仕事も淡々とこなす。少し緊張した面持ちなのは、今まで世羅とはそれほど接点がなかったためだろう。

フェイほど王族と密な関係がある薬師は、それこそ長のライくらいなものだ。薬師たちは媚びるでもなく堅実に薬師としての仕事に勤しむ者が多い。仕事に熱心なのは褒め讃えられるべきだが、世羅には少々遊び心が足りなく思えてしまう。

一礼して去っていったルウイを見送って、世羅は窓のそばに立った。

世羅はシンビ国の西の果てにある城で、兵士たちと寝起きをしていた。暮らすように作られた城ではなく、中央で定められた法をこの地で運営するために役人が集う場所だ。役人の長が不在の今、その代わりを世羅自らが担っていた。

私利私欲に溺れた役人に搾取されていた民たちは世羅の到着に湧き、快く城への道をあけてくれた。

また、強大な長を失って、途方に暮れていた役人たちも、抵抗することなく世羅を招き入れた。

「ここには長と呼べる者がいないな。」

当初、役人たちの中から適した人材を選ぼうと思っていたが、命じられることに慣れた者たちばかりで、人の上に立つべき者がいない。

不正を働いていた役人たちは、良くも悪くも上手く他の者たちを掌握する力と知恵があったということになる。

「現場に出たいものだが、果たして軍師が許してくれるかどうか・・・。」

堅物の軍師は世羅が土木の現場に行くことを嫌がった。世羅を土煙で汚したくないなどと言い張る。

「もしかしたらまとめ役に適した人材がいるかもしれないというのに。」

汚れれば水で清めればいいだけのこと。ここまで遠征してきて城ばかりにこもっていたら、王宮にいるのと変わらなくなってしまう。

「行くか。」

ガラス窓に別れを告げて、あてがわれた部屋を出る。

城にこもって指揮を執ることに幾分か耐え、軍師の顔は十分立てられたはずだ。これ以上部屋にこもっている理由はない。

フェイがここへ辿り着くまでに、新たな舵取りを決めなければ。何をしていたのかと、笑われてしまう。

フェイの満足そうな笑顔が見たい。

民の幸せを心から願っている彼に、希望を見出す民の顔を見せたい。そうすれば、御しきれずに想い人がいるなどと口を溢し、フェイを悩ませてしまった自分の行いがなかったことになるような気がした。

「世羅様!」

外へ出たはずのルウイが駆け足で寄ってくる。急いでいるようすに一瞬身構えた世羅だったが、差し出されたものを見て頬が緩む。

「フェイからの文でございます。」

互いの国鳥を飛ばし合って近況報告をしているフェイとルウイ。その近しい関係にこっそり嫉妬する自分がいる。自分もここにいるのだから、文の一つくらい寄越してくれたらいいのにと。

我慢ができなくなった世羅は、ルウイの事務的な文と一緒に、世羅がしたためた文も一緒に運んでもらうことにした。

今手元に来た文はその返事だろう。

一国の主になろうとしている人間が容易く重要なことをしたためるわけにはいかない。当たり障りのないことしか託せないが、それでも良かった。

フェイが自分に時間を割いてくれる。それだけで世羅の心は十分満たされた。













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