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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

碧眼の鳥7

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碧眼の鳥7

王都は煌びやかなモノで溢れている。実質、その頂点にいると言える彼の目に、この品が特別な物としてうつるとは思えなかったが、薬師にとっては祈りのための大事な品。世羅の心が健やかになってくれればと願掛けのつもりで、一晩かけて宿屋で織った。

国鳥は冬になると色とりどりの羽根を落とし、全身真っ白に模様替えをする。その時国鳥が落とし羽根を取り置き、薬師たちは無事に旅を続けられるよう祈りながた織って、小さな御守りとして肌身離さず身に付けるのだ。

キィが恵んでくれた羽根でフェイは自分の分と世羅の分を織った。

「キィ、どう? 素敵なものが織れたよ。世羅様に心配していると伝わればいいのだけど・・・。」

きっとフェイには解決できないことなのだ。だから世羅も話してくれない。解決できなくても気持ちを吐露することで楽になれることもあるだろうけれど、フェイが知る世羅は白黒はっきりした性格だ。中途半端な状態は自分で自分が許せないのだろう。

先ほどから肩の上でコロコロと陽気に鳴くキィ。甘え上手なキィのように、世羅ももう少し肩の力を抜いて生きてもいいと思う。キィとフェイは縛られない旅をしながら生きるが、世羅は課せられたものが多い未来の天帝。自分たちは全く真逆の生き物だ。

自分のために織った守札を胸に当てて祈る。どうかこれ以上、世羅が苦しまなくて済むようにと。
世羅からお呼びがかかっていると、昨夜王宮からライの相棒が宿屋の窓を突いて手紙を置いていった。

王都を出る時に渡そうと思っていたが、今宵世羅へ渡してみよう。受け取ってくれると嬉しいのだが、強要するつもりはない。世羅の顔が曇ったら、すぐに守札を辞退しようと心に決めた。


 * * *


呼ばれた部屋は、世羅の寝室。幾度か幼い頃、世羅の魅力的な誘いを断りきれず、一緒に手を繋いで眠ったこともあった。

懐かしい場所はあの頃のまま、上品な香が焚かれ、豪華な調度品が揃っていた。幼い頃は大して気にも留めていなかったが、こんな上等な空間に自分の身を落ち着かせるのは難しい。なにか壊してはいけないと思うと緊張が解けない。

「フェイ、突然呼び出してすまなかった。」

「いいえ。なにも用事はありませんでしたから。」

「そうか、それは良かった。さぁ、ここへ。」

招かれたのは寝台の上。しかしあの頃と違うのは、本来招かれるべきは彼の妃となるその人だけだと、疎いなりに知識はある。

寝台の前で戸惑っていると、手を引かれて座るように促される。

「叶うなら、今宵だけ、昔のように戻りたい。そして私の戯言を聞いてほしいのだ。」

「昔のように・・・」

「そうだ。」

「・・・では、失礼いたします。」

世羅の話が落ち着いたら、守札を差し出してみようと決めて、ゆっくりと寝台へ腰を下ろす。すると腕を引っ張られ、弾みで二人とも寝台へ身体ごと沈み込んだ。

世羅が小さな声を上げて笑う。けれどその声はとても暗く哀しげだ。

「よくこうやって、手を繋いで眠った。そなたがここへ来てくれることが、とても嬉しかったのだ。私には臣下は山のようにいるが、友はいなかったから・・・。」

世羅の言う通りだと思う。彼には、かしずく者たちはたくさんいるが、対等に付き合える者はほとんどいないだろう。畏れ多くて叶わない。フェイが世羅と近くあったのは、偶然年頃も似て幼く、薬師という特殊な立場があったからに他ならない。

「知らない、ということは幸せだ。」

「・・・。」

言っている意味がわからなくて、フェイは首を傾げて世羅に問う。

「知らぬゆえ、自分の望むものは全て手に入るのだと思っていた。」

世羅には何か手に入れたいものがあるのだろうか。胸のつかえるような声を出して話すものだから、世羅の言葉を何一つ聞き漏らすまいとフェイは耳を傾ける。

「想うたび、望むたび、苦しくて身体が裂けそうになる。」

「世羅様・・・」

「人を恋しく想うことはつらい。いっそ心がなくなってしまえばいいものを・・・」

豪奢な天蓋を見上げたまま、世羅がポツリと小さな声で言葉を溢した。その全てが悲壮感に満ちていて、フェイは心を締め付けられる。ふと涙を誘われて、零れ落ちてしまったものを慌てて衣の裾で拭った。当人すら泣いていないというのに、自分が泣いてしまうのは失礼に当たるかもしれない。恐る恐る世羅を見やったが、フェイの涙には気付いていないようだった。

心がなければと望むほど、人を想うつらさとはなんだろうと考えてみるものの、到底その奥深さは自分には理解ができない。

せっかく気持ちを吐露してくれたのに、自分は世羅の役に立てないことが哀しい。

どうにか彼の心を包み込んであげたくて、世羅と握ったままの手を胸に抱えて両手で温める。すると、世羅の握り締めた方の手がフェイの両手の中でピクッと震えた。

「世羅様の心が癒えることはないのでしょうか。」

「癒える日など、こなくていいのだ。」

つらいのに癒えなくていいとはどういうことだろう。

「忘れたくはない。これほど人を想うのは、最初で最後だろうから。」

「世羅様は・・・それで幸せになることができるのでしょうか・・・。」

「私のことはいいのだ。・・・が幸せであってくれれば・・・」

あまりに小さく呟くので、聞き取れなかった言葉をもう一度求めようと世羅の視線を追いかける。しかし彼は首を横へ振って哀しそうに微笑むだけだった。

「世羅様。どうか、これを。」

寝台の上で転がったまま向き合い、守札を世羅の手に握らせる。

「これは・・・薬師の大切なものではないか。」

「これは世羅様に差し上げるために誂えたものです。どうか受け取ってください。そしてご自分の幸せを諦めるような、哀しいことをおっしゃらないでください。」

世羅を真っ直ぐ見つめていると、彼らしくもなく困ったような不安げな瞳で見つめ返される。本当にどうしたことだろう。

このたびの王都への帰還は、世羅の知らない顔ばかり見る。それほど深く彼が悩み苦しんでいる証だろう。

身体の病を治すことはできても、心の病を癒してあげられるだけの言葉を自分はまだ持ち合わせていない。その不甲斐なさがフェイを打ちのめした。

「フェイ、私はこんな清らかなものに縋るわけにはいかない。」

言葉ではそう溢しながらも、世羅はそっともう片方の手を重ねてきて、物憂げな溜息を溢した。















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