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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

碧眼の鳥5

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碧眼の鳥5

爽やかな風が王宮の中を駆け巡っていく。

独り占めにはできないと、世羅から他の薬師たちのもとへ帰されて、王宮の一角で薬師たちと語らい、夜更けまで過ごした。

昨夜抱き締められた腕は強く、熱く、世羅が知らない者に思えた。

フェイの考えが及ばぬことに、世羅は心を痛めているのだろう。闇夜が明けた今も、その悲痛な声がフェイの耳には残ったままだった。

堂々と揺ぎないように見えていた世羅にも悩みの一つや二つはあったのだ。あれだけ弱り、それを隠そうともしない彼を見るのはフェイも初めてのことだった。

世羅と理世の母君が亡くなられた時でさえ気丈にしていた彼があんなに心乱れている。そればかりがいささか心配だ。

王族の心に沿える者はなかなかいない。彼らの心身を守る薬師ですら、その全てを知っているわけではないのだ。

「キィ、世羅様は何を悩んでいらっしゃるのでしょうね。」

旅の相棒として頼もしいキィも、好物のムギを前にして、こちらを見向きもしない。

「凄く辛そうなお顔でした。キィも見ていたでしょう?」

指の腹で背を撫でてやると、気持ち良さそうにキィがコロコロと軽やかな声で鳴く。しかしフェイが溜息と共に手を止めると、再びキィはムギへ向かってしまった。

廊下の出窓に立って朝陽を浴びていると、昨夜の出来事が夢のように思えてくる。夜風に舞う漆黒の髪が世羅をさらに寂しげに見せていた。

最後まで、どうしても世羅は口を開かなかった。何を許してほしいのかさえわからぬまま、結局突き放されてしまった自分は、世羅の心の支えにはついになれなかったのだと落胆してしまう。

「フェイ。そち、そこにおったのか。」

「ライ様。何かご用でしょうか。」

ライは薬師の長。王族の薬師その人だった。

長い旅の間に焼けた色が肌に染み付いて、歳も七十を超えることから、刻む皺も深い。

「そなたの耳に入れておこうと思う。世羅様のことだ。」

フェイは尊敬の念も込めて一礼し、キィに一旦別れを告げてライの言葉を待った。

「世羅様は今年の生誕祭で二十六になられる。存じておるな。」

「はい、承知しております。」

「今でも遅過ぎると周囲の臣下たちは騒いでおったが、ついに宰相の選んだ娘が王宮へやってくることになった。」

「そう、なのですか・・・。」

「しかし世羅様はそのことをあまり快く思っていらっしゃらない。」

「・・・。」

もしかして昨夜のことは、この事と何か関係があるのではないだろうか。しかし許してほしいという言葉の意味がわからない。

「そちが一番御心に近いと思っておる。心をくだき、世羅様が落ち着くまで、王都を発つのを待ってはくれまいか。」

「私でお力になれるでしょうか・・・。」

昨夜、力になれなかったばかりだというのに、果たして自分にそんな大役が勤まるのか不安だった。

「理世様の方がいっそ清々しいお顔をされておる。世羅様が心配じゃ。我々がまつりごとに口を出すことはあってはならぬが、御心の健やかさは我らが第一に望むこと。世羅様の支えとなってほしい。」

「承知いたしました。何ができるか未だわかりかねますが、尽くしとうございます。」

「頼む。」

ライが長年酷使した足を引きずって立ち去るのを見届けて、キィのもとに視線を戻す。すると食事を終えたらしく相棒はこちらを見つめていた。

「キィ、私でお力になれるだろうか・・・。」

肩へと飛び乗り、まるで慰めるように身体をフェイの頬に擦り付けてくる。

「けれど、一番お辛いのは世羅様ですね。私に出来ることを探すより他ないかもしれない。」

相棒が応えるように一声甲高く鳴く。

一人歩む道で途方に暮れた時、キィは心配して舞い戻ってきてくれる。同じように自分も世羅が孤独を感じた時、そばにいられるようにしようと、雲行きの怪しい空を見上げて決意した。














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