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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

碧眼の鳥45

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碧眼の鳥45

世羅は、フェイが生きて帰ってくると聞いて、その帰りを今か今かと首を長くして待っていた。これで全てが元通りなのだと信じて疑っていなかったので、フェイの記憶に欠落がある現実を突きつけられ、途方もない喪失感をおぼえた。

フェイの中から、自分との思い出が消え去っている。受け入れ難い事実に頭が混乱して、申し訳なさそうに頭を下げるフェイに呆然とするしかなかった。

世羅のことはルウイに聞いたという。世羅の命で東へリリを送り届け、その後奇襲に遭ったということも、わからないながら納得していた。

「キィ、そんなに興奮しないで。どうしたのですか?」

よりにもよって、キィは世羅の姿を視界に入れるなり、威嚇して鳴いてくる。もうすっかりキィの中では世羅が悪者なのだろう。フェイが危機的な状況に陥って神経質にもなっているようだった。フェイと二人で話そうにも、キィが寄り添って離れようとしない。

「フェイ、私に少し時間をくれるか? そなたと二人きりで話がしたい。」

「・・・はい。」

フェイが戸惑いながらも応じて、そばに立ったライにキィを預けようとすると、キュルキュルと声を上げて抗議してくる。フェイは抱えられて去っていくキィにすまなそうな顔を向けながら、世羅に促されて書斎へと入った。

送り出した時と見た目にはさほど変化のないフェイが、自分を知らないなんて。悪夢のような報せを受けてからずっと堪えていた気持ちが溢れ出して、フェイが戸惑うのも構わず抱き締める。

「ッ、世羅様・・・」

「フェイ、無事で良かった。そなたが帰ってきてくれただけでも、私は嬉しい。」

「・・・ご心配、おかけいたしました。」

心配どころの騒ぎではない。身を引き裂かれるような思いで待っていたのだ。もう二度と生きて抱き締めることが叶わないと思っていた。

「フェイ。そなたをどこへもやりたくない。」

「・・・。」

「金輪際、私のそばを離れることは許さぬ。」

重過ぎる愛情の押し付けだ。しかしそれでも口から滑り落ちた言葉は止まらずに、畳み掛けるように言ってしまう。

「ずっとここで私と暮らそう。」

「世羅、様・・・」

「そなたが頷いてくれるなら、すぐにでも部屋を用意させる。私の気持ちをどうか受け取ってはくれまいか。」

抱き締めながら耳元に溢れたフェイの溜息で我に返る。

「まるで・・・恋い慕う方におっしゃるような物言いに聞こえます。」

他人事のように言われ、すり抜けていく想いに虚しさをおぼえる。たまらず唇を奪うと、ようやく驚いたように手を震わせた。

柔らかい感触を唇で感じ、貪るように幾度もその温かさを確かめる。

フェイを前にして冷静になるなど、自分には到底無理なのだ。どうしても衝動的になってしまう。

「ッ・・・ふぅ・・・」

抱き締めるとすっぽり腕の中に収まってしまうこんな小さな身体で、世羅を思って身を投げたフェイ。愛おしいと思う気持ちを止められない。

けれど悲しい結末が欲しいわけではない。この腕に抱き続けられる未来が欲しいのだ。

名残惜しく思いながら唇をそっと離すと、潤んだ瞳が世羅を射抜くように見つめていた。その純粋過ぎる眼差しに耐えられなくて、抱き締めて視線を遮ると、窺うように世羅の背に腕が回された。

「世羅様。私は誰かを・・・こうして抱き締めた記憶がございます。」

「・・・そうか。」

「世羅様と私は・・・」

「すまない・・・急ぎ過ぎた。そなたが目の前にいると思ったら、止まらなくなった。」

強引に迫って丸め込んだ関係を何と言い表したら良いのかが、わからなかった。想い合う関係などという綺麗事ではなく、もっと生々しい関係だ。

「世羅様に抱き締められると、とても懐かしい気持ちがいたします。」

記憶を失っても、フェイは何も変わらない。素直に思ったことを口にし、純粋な心でこちらを圧倒してくる。

「フェイ・・・せめて、記憶が戻るまで、私のそばにいてほしい。」

思い出を共有しないフェイは、どこか自分の知らない遠くへ行ってしまう気がして。窮屈な檻の中だとわかっていても、ここに留め置いておきたい。

「世羅様、おそばにおります。」

「・・・そうか。」

世羅が病で倒れた時も、フェイは同じようなことを言って世羅を宥めた。取り残されるのはいつも世羅の方で、フェイはその足でどこまでも遠くへ行ってしまう。

相棒のキィが羨ましかった。無条件で一緒にいられる理由がある彼は、何の疑問も持たず共に生きることが必然だと思っているのだろう。引き離されそうになれば当たり前のように抗議の声を上げる。

「フェイ。私とキィ、どちらが大事だ?」

「そ、それは・・・」

今も昔もフェイの中には順位付けなどなく、何かを比べて甲乙を付けるような性格ではないだろう。

「・・・選べません。」

困ったように眉を下げるフェイ。その顔を愛おしいと思う自分も、全く変わっていなかった。















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