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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

碧眼の鳥42

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碧眼の鳥42

世羅が放った兵士たちは、山を下ってきた喜天の配下と一戦を交え、ついに彼らを捕えることに成功した。しかしすでにそこにはフェイの姿はなく、薬師の国鳥も姿を消していた。

「世羅様になんとご報告申し上げたら良いのやら・・・。」

項垂れる一団は、翌朝見通しがきくようになってから、フェイが飛び降りたという場所で薬師の剣を見つけることとなった。

「フェイ様はこんな崖の上から・・・。」

「流れが急過ぎて降りることも困難でしょう。」

ソウは足手まといにならないと約束をし、兵士たちの一団に加わって、ここまで登ってきていた。

眼下は激流。岩もゴツゴツと隆起し、命など到底あるとは思えなかった。

「この水量だと、下流の方へ流されているかもしれません。なんとしてもフェイ様を見つけて、世羅様のもとへお連れしたい。世羅様はフェイ様と本当に仲睦まじい関係でいらっしゃったと聞きます。」

ソウの言葉に一同が頷く。

「捜索は二手に分かれよう。この周辺を探す者と、下流へ向かって探す者と。」

兵士を束ねている軍師が指示を出す。各々が頷いて、ソウは下流を辿る方へ加わった。

フェイは身軽そうに見えた。どこかの岩に挟まっていない限り、流されている可能性の方が高い。

ソウたちは安全な道を選びながら、下流へと続く道を覗き込み、ひたすらフェイの姿を捜し、呼び続けた。


 * * *

王都で軍師からの伝達を待っていた世羅は、最悪の報せに愕然としながら、喜天一派を捕え、牢へと繋いだ。

関係していた兵士は数十名。喜天から重要な役職を約束されていたらしい。懐にこれだけの反逆者を抱えていたことに己の不甲斐なさを呪いたかった。

「ライ。確か、ルウイは東の方へ出向いていたな。」

「捜索に加わるよう、すでに申し伝えてあります。」

「・・・すまない。そなたたちの手を煩わせてばかりだ。」

「世羅様が謝ることではないでしょう。」

「私の所為だ。私がフェイをこんな目に合わせた・・・」

ライは何か言いたそうに一度口を開いたが、結局何も言葉を発することはなかった。

「フェイは・・・喜天の手の内に落ちまいと、自ら身を投げたと・・・。」

「世羅様の足枷にはなりたくなかったのでしょう。」

誰か、嘘だと言ってほしい。悪夢なら覚めてほしい。

もし亡骸がこの腕に返ってきたら、自分は正気でいられるだろうか。直視など到底できそうにない。

喜天に一矢報いたとして、フェイの命がこの腕の中に戻ってこないなら、何の意味もない。世羅自身の不注意で招いた結果に、戻ってきたとしても、何と言葉をかけたら良いのかわからなかった。

自分のために命を捨てることを厭わないフェイ。そんな彼に報いることができるとは思えない。むしろ自分の気持ちを押し付けてばかりいた。

謝りたい。こんな目に合わせてしまったことを。愛してしまったことも含めて、謝りに飛んで行きたい。

会いたい。どうしても会いたい。信じたこともない神にさえ、縋りたくなった。

「世羅様、どうかフェイのことは我ら薬師にお任せください。」

「・・・わかった。」

世羅にできることは限られていた。自分の背には民の命運がかかっていて、フェイ一人の捜索に加わることが許される立場ではない。ライの言葉に頷くより他なかった。

どんな姿をしていたっていい。どうかもう一度この腕の中に閉じ込めて、至らなさを詫びたい。一度ならず二度も三度もフェイに助けられ、苦しい思いをさせた。

「絶対に連れ帰ってくれ。」

「承知いたしました。」

ライの淡々とした声に幾分救われた。感情的になりそうな心をどうにか押しとどめることができたからだ。

ふと、キィの事に思い至る。キィは主がこんな事になって、どこで何をしているのか。彼の行方もわからないのが気にかかった。キィが誰か他の薬師に助けでも呼びに行ってくれていれば良いのだが。

身体を強く打っただろうか。水をたくさん飲んで苦しかっただろうか。代わってやれるものなら代わってやりたかった。

未だに頭の中が混乱していて、現実を受け止めきれない。心臓の音は嫌な轟音を立てて鳴り続けている。世羅はなす術もなく、力を落とした。














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