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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

碧眼の鳥41

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碧眼の鳥41

地面を掘って、周囲の草木に火が移らないようにし、焚き火をして暖を取る。夜、山は急激に冷える。

しかしフェイはこの静寂さと草木の香りに抱かれて眠ることが好きだった。

火は時々起きて朝まで燃やし続ける。その方が獣を寄せ付けずに、人と獣、どちらにとって不幸にならない。

「キィ、こちらへ来ないのですか?」

いつもはフェイの腕に抱かれて眠るのが好きなキィ。しかし、ソワソワと落ち着きなく飛び跳ねている。妙だと思った。

「キィ?」

もう一度尋ねたところで、ある気配を察し、フェイは慌てて焚き火を土で覆って消した。

何かが近付いてくる気配がする。けれど獣の足運びとは明らかに違い、鍛錬を重ねた人間の気配。迷うことなく向かってくるということは、もうこちらの存在に気付いている。

そう考えた後のフェイの行動は早かった。

「キィ、逃げますよ!」

小声で叫び、キィを肩に乗せて山道を走り出す。翼の大きなキィにはこの森は不利だ。夜道を逃げ惑うのは危険な行為だが、すぐさま足早に追い掛けてくる気配を感じ、自分の取った行動が正しかったと知る。

山賊ではない。兵士だ。何故自分が狙われるのかがわからなかったが、殺気立つ気配と、すでに隠そうとすらしない怒り声を背後で受け止め、フェイは必死に走り続けた。

少し駆け上がったところで、水の流れる音が聞こえてくる。切り立った崖のようなところを進んでいることに気付き、一歩間違えば真っ逆さまに転げ落ちる事態だということを知る。

脇に乱立する木々が走るほどに減っていき、もしや人の通る山道かもしれないと希望を持って走り続けた。開けたところなら追いつかれたとしても剣を抜いて戦える。隙を突けば逃げ切れるかもしれない。

しかしそう思った矢先、目の前に現れたのは断崖絶壁だった。

「ッ・・・」

己の運のなさを嘆いていても仕方がない。

気を取り直して腰に据えていた剣を抜き、後方へ向き直る。すると足音はすぐに追い付き、現れたのは五人の兵士だった。

王都の兵士。その証拠に、左腕の腕章には国鳥をあしらった金の刺繍がある。彼らは世羅の臣下だ。しかし胸の内はそうではなかったということだろう。世羅が寄越すとは到底思えない。フェイは世羅を信じていた。

飛び掛かって敵う相手ではない。兵士たちはその道の達人だ。しかし彼らに何故追われねばならないのかがわからない。

「なぜ・・・」

口から漏れた言葉は兵士たちにも届き、その内の一人が不敵に笑って告げてくる。

「フェイ様の御命と引き換えに、我ら喜天(きてん)様のご意向に従ってもらう。」

喜天と聞き、フェイは暗澹たる思いがした。喜天は羅切の母君だ。喜天が動くということは、羅切が処刑されたということだろう。悲しい負の連鎖。こうやって人は憎しみを背負い続けてしまう。
世羅の身に危険が及ぶかもしれないと漠然と考えていたが、まさかこんな卑怯な手に出てくるとは思わなかった。

世羅は自分に想いを寄せている。フェイを盾にされたら、きっと彼のことだ。フェイの命を優先してしまうだろう。

捕まってしまえば、世羅の足枷となる。

「諦めて、剣をおいていただきたい。」

にじり寄ってくる兵士たちの足に合わせて、フェイも崖の方へ後退していく。

「このまま、崖の下へ転落なさるおつもりですか?」

彼らにこの身を明け渡してはいけない。フェイは覚悟を決めた。

世羅に何の言葉も遺せないことが悔やまれる。きっと悲しませてしまうだろう。けれど自分に彼の足枷になる選択肢はない。世羅のためにこの命のはある。理世とも約束したのだ。

そしてこの時ようやく理世が枕元で呟いた言葉の意味を知る。世羅が理世を恨むだろうと言った彼の真意はこういうことだったのだ。

しかしフェイの決意はそれでも揺らぐことはなかった。

手から構えていた剣が落ちる。そして迷わず水が唸る崖の下めがけて、身体を投げ出した。

上空で、キィが甲高く鳴き叫ぶ。そして漆黒の闇にまぎれ、フェイは濁流へと呑み込まれていった。














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