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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

碧眼の鳥40

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碧眼の鳥40

剣の交わる金属音が城内に響き渡る。大勢の兵士たちが鍛錬を積む場所を、世羅は毎朝必ず顔を出す。世羅の日課にもなっていて、時間が許せば世羅もここで汗を流した。

フェイがいない日々は心が手持ち無沙汰になる。それはつい最近始まったことではなく、昔からそうだった。つまりほぼ一年を通して、なんとなく日々が味気ないのだ。

今はもう訪ねていく理世もいない。刺激がなければ心も身体も鈍ってしまうから、せめて剣の鍛錬だけには熱を入れようと、このところ公務以外の時は兵士たちと共にしていることが多かった。

「世羅様」

兵士の一人と打ち合いをしている時、遠慮がちに軍師から声がかかる。彼はよほどのことでない限り世羅の邪魔をするようなたちではないし、己の立場というものに順従な人間だ。打ち合いをしている兵に手で終わりを告げる合図をして、すぐに声のする方へと振り向いた。

「世羅様、お耳に入れておきたいことがございます。」

「申してみよ。」

世羅は軍師と隅の方へ歩いていき、鍛錬に精を出している兵士たちから距離を取った。

「実は・・・昨夜、王宮の門番が数名、何の断りもなく姿を消しました。」

「消えた?」

「脱走する兵士が全くゼロということはありませんが、このようにいっぺんに消えることは稀でございます。」

「それぞれの故郷は?」

「バラバラでございます。故郷が恋しくなって、というのは考えて難いかと。ただ・・・」

言葉を濁した軍師に、世羅は嫌な予感がしてくる。

「いずれも羅切様の近辺警護をしていた者たちなのです。」

声を一段と低くする軍師の言葉に、世羅は血の気が引いていく。

「王都の門番をしていた者の話ですと、馬で早駆けをする一陣が東へ向かったと。リリ様一行に急ぎの用があるのかと思ったらしく、不審に思わなかったそうなのです。」

狙いはリリか、フェイか、あるいは一行全てか。

しかし羅切を慕っていた可能性を考えると、一番の狙いは世羅自身としか思えない。その周囲の者を傷付けようと考えるのであれば、真っ先に標的となるのはフェイだろう。

「今すぐ東に兵をやれ! 一刻も早く、一行のもとへ向かうのだ!」

「かしこまりました。」

フェイも剣術と体術を心得ている。しかし薬師の本分は戦うことではない。王都で訓練を受けた精鋭の兵が幾人もいては太刀打ちができないだろう。

本当は自ら彼のもとへと飛んで行きたかった。けれどそんな事は軍師をはじめ、多くの臣下たちが許さないだろう。

心臓の音が鬱陶しいほど強く早く鳴る。もし失ってしまったらと考えるだけで目の前が真っ暗になっていく。

世羅は宰相を呼び寄せ、羅切の近辺にいた人間を徹底的に洗うよう命じて、執務室へと飛び込んだ。


 * * *

リリとその一行が小さな里山に着いたのは夕暮れ時だった。出迎えてくれた彼女の両親は王宮で起こっていたことを知りようもない。一行のまとめ役が彼女の両親へ事の顛末を話すと、納得したように世羅からの書状と贈り物を受け取った。

「リリ様、お元気で。」

「フェイ様も、またこちらへ足を運ばれることがありましたら、どうかこの里のことも思い出してください。」

「もちろんです。」

一行は来た道と同じように、この里の野営地で簡易的な寝床をこしらえて夜を過ごす。しかしフェイは山の道を行こうと一行から離れることにした。

「フェイ様もキィ様も、お元気で。いつか西の方へまたいらしてください。」

「ソウ様も長い帰路、お気を付けて。またいつか、お会いましょう。」

キィがジッとソウを見つめ、別れを惜しむように一声小さく鳴いた。騒がしかった世羅の時とは大違いだ。

一行の他の面々にも別れを告げて、山の道を目指して里を離れる。これからはまた長い一人と一羽の旅が始まる。フェイはそう信じて疑っていなかった。

山の道へと入る前、もう一度里を振り返って見送ってくれていた人たちに手を振る。すぐそこまで夜の闇が近付いていた。


 * * *

真っ暗な闇に火の粉が舞う。ソウたち一行は里の適当な場所に屋根と寝床を設営して、夕餉の支度に取り掛かっていた。毎晩、役割分担をして、それぞれ割り当てられた仕事をこなす。今宵、ソウは火を絶やさぬよう薪を焚べる係を任されていた。

遠くで馬の駆ける音がする。こんな静かな里には似つかわしくない音であることは確かだ。しかもとっくに陽は暮れている。よほど急ぎの用があるのかもしれない。

順調に薪を焚べながらも、どこか他人事のように思っていたソウだったが、馬の足音が近くで止まったので、顔を上げて音のしていた方へ首を伸ばしてみる。

「誰かいらしたのですか?」

火の番を別の者に一度引き継いで、その場を立つ。屋根の端で番をしていた大柄な兵士に尋ねると、あまり興味がなさそうに淡々と答えてきた。

「どうも王都の兵がフェイ様を追い掛けていらしたようなのです。急ぎの用があるとか。」

「王都ということは世羅様に何かあったのでしょうか?」

「よくわからぬ。とりあえず、フェイ様が向かわれた場所をお教えした。しかしこの夜道、山の中、見つかるかどうか・・・。」

「確かに。大事でないと良いのですが・・・。」

兵士と頷き合って、ソウは山の方の空を見上げる。厚い雲がかかって、星一つ見えない漆黒の空だった。














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