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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

碧眼の鳥33

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碧眼の鳥33

黄金の間には、煌びやかな衣装をまとった役人たちでひしめきあっていた。重要な国事がある時、各地に散らばっている役人たちが一同に会する場所であり、天帝の目が隅々まで行き届いていることを内外に示す場でもある。

戴冠の儀に挑むまで、とても億劫なものとばかり思っていたが、役人たちの顔の中に西で登用したソウの姿を見つける。立派な体躯は軍師を思わせたが、役人の正装もなかなかさまになっていて、世羅の口元も綻ぶ。

理世の在位はたった一年だった。しかしあらゆる公務に限界を感じながらのまつりごとでもあった。どんなに統治者として優れていたとしても、肉眼を光らせることに敵うものはない。世羅はそう思っている。だからこそ、才のあった理世が健康であってくれたなら、と願わずにはいられなかったのだ。

しかし去ってしまった者の幻影にいつまでもしがみついていてはいけない。世羅自身の力でこの国を支えていかなければならないのだ。その決意をする意味でも、戴冠式は世羅にとって意味のあるものになろうとしていた。

フェイは明日の朝、リリを連れてまた遠い地へ旅立ってしまう。元々その予定を組んだのは宰相で、承諾したのは世羅だ。自身で許可を出しておきながら勝手な言い分だが、こんな中途半端な関係になってしまった今、離れたくなかった。なんとか口説き落として、丸め込みたい。

一度離れたら最後、なかったことにされたらたまらない。

「前へ!」

宰相が声高に叫ぶと、列を成して跪いていた役人たちが一斉に立ち上がる。一糸乱れぬ姿は圧巻で、このたった一度のために幾度も練習した成果だった。

彼らは今朝、日が昇る前からここへ集まり準備をしていたのだ。敬意のための行いを、つまらないの一言で片付けるのは忍びない。形から入ることも必要なことがある。

世羅が彼らを立たせる時間を作ることにしたのには訳があった。国に散らばる、自分の手足となる人間の顔を、この目に一人ずつ焼き付けたかったからだ。

目線を合わせ、視線が交われば、その内の幾人かは民のために身を削ろうと決心してくれるかもしれない。手を染めていた悪行から身を引く決心をするかもしれない。跪かれるだけでは見えてこない収穫があると願って。

様々な期待を胸に抱いて、世羅は黄金の玉座から立ち上がった。

天帝と臣下たちの間を遮っていた簾が開かれる。声にならない彼らのどよめきを肌に感じながら、この者たちの頂点に立って、死ぬまで君臨し続けるのだと覚悟を決める。

「前を見よ。そして、民のために生きよ。」

理世のような聖人君子にはなれない。けれどいつだって前を向いて力強くいたい。

まだ世羅にとっては叶えられていない願望だ。愛する人に振り回されて、とても大口を叩けるような身ではない。

けれど自分に課せられたものは待ってはくれない。あっという間にのしかかってきて、油断すれば潰れるのは一瞬だろう。

初めは虚勢でいい。いつか本物にするために、歩みを止めずに前を向き続ける。

「兄上、どうか見守っていてください。」

玉座の前に出て、簾をくぐり、臣下を見下ろして小さな声で呟く。

理世は覇者ではなかった。剣の腕もない。弱者だったからこそ、見えていた世界がある。民と交わることがなくとも、民の心に寄り添えたのは、必ずしも恵まれた身体ではなかったからだ。

自分にはあらゆるモノを見抜く視点が足りない。理世のそばで彼の話を聞くたびに、思い知らされていたことだ。

理世の一年に、自分の数十年が敵わないかもしれない。そんな恐怖を抱きながらも、この運命から逃れようと思ったことはない。

「前へ。」

最前列に位置する役人たちに世羅自身の声で命じる。世羅の前に立った青年が頬を紅潮させ、興奮の眼差しで世羅を見つめてくる。長い行脚は、年若い青年の感嘆の溜息と共に始まった。

 * * *

黄金の間の脇に据えられた小さい部屋で、フェイはキィと二人、戴冠式の様子を見つめていた。

「キィ、世羅様は天帝になられるのですよ。」

息をするのもはばかられるような厳粛な空気に、キィも少し興奮しているようで、しきりに頬をくちばしで突いてくる。

「痛いよ、キィ。痛いってば。」

首と肩の周りを落ち着きなく動き回っていたキィは、フェイが好物のムギを掌に乗せると、ジッとフェイを見つめ様子を伺い、納得したのか静かにムギをついばみ始めた。

「世羅様は・・・私をどうするおつもりなのでしょう・・・。」

キィはすっかりムギに夢中で、フェイの話など耳に入っていないようだった。

隠しもせずにフェイは溜息をついて、掌に感じる小さな衝撃を何度も受け止める。

「私は・・・世羅様の禍になってしまうかもしれません。私は何をされても耐えてみせましょう。けれど世羅様に軽蔑の目が向けられるのは嫌なのです・・・。」

キィの好きな背を指で撫でてやると、コロコロと嬉しそうに鳴く。顔を上に向け頬擦りをし、素直にもっとと強請ってくるキィが羨ましくなった。

世羅の熱い腕に抱かれるのは嫌いではない。むしろ胸がときめいて、切なさで泣きたくなるほど心が震えるのだ。ここ数日、平静を装って誤魔化してきた想い。

「世羅様にもっと触れてみたいと思ってしまったのです。こんなこといけませんよね、キィ。」

世羅の腕の中で初めて愛されることの意味を知った。身体で知る愛はあまりにも強烈で、言葉がなくとも世羅の心が直接頭に流れ込んでくるような感覚がしたのだ。

「どうしたらいいのでしょう。思い留まる術がわかりません・・・。」

黄金の間から目をそらし、背を向けて座り込む。陽気な相棒を肩に乗せながら、フェイは途方に暮れて深い溜息をついた。















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