迷った挙句にライを呼び寄せて、湯浴みの支度をさせる。自分で始末をつけるからと下がらせたのは、事態を悟られていても、フェイの姿を誰にも見せたくなかったからだ。
すべての気を搾り取られて何も出なくなるまで交わった後、残されたのはぐったりと力の抜けたフェイだけだった。
もともと弱っていた身体に世羅が強引に身体を繋いだのだ。フェイは意識も朦朧としていて、世羅の呼び掛けにも時折手を握ってくるだけだった。
「うッ・・・ん・・・」
二人で湯に浸かり、フェイの中へと放ったものを指を挿し入れて取り除いていく。指を動かすたびに辛そうな呻き声が上がるので、愛しいと言うことも憚られた。
どの口がそんな事を言うのかという話だ。フェイの尊厳を無視して抱いてしまったのだから、もう何の言い訳もできない。
「世羅、さ、ま・・・ッ・・・」
「・・・。」
薄っすらと目を開けて、ジッと見つめてくる。その眼差しの強さに怖気づきながらもそらすこともできなかった。
「そんなお顔を、なさらないで、ください・・・。」
どんな顔をしているのか、自分ではわからなかった。ここまできても、まだフェイの心の広さを期待して、往生際悪く諦めきれない自分がいる。到底突き放される覚悟などできてはいなかった。
「世羅様の御心がわからず、ずっと寂しかったのです。だから・・・知ることができて、良かった・・・。」
「フェイ・・・。」
嫌味でも抗議でもなく、フェイの口調と表情から、本当に心からそう思っているのが伝わってくる。到底、良かったなどと言ってもらえる状態ではないというのに。
毒を煽り救ってくれただけでなく、世羅の劣情を弱った身体で受け止めたのだ。自ら動くことすらままならないのに、フェイは世羅の気持ちを知ることができて良かったと言う。しかしもしその言葉が臣下としての言葉なら、きっと自分は絶望する。
「世羅様をお慕いするこの気持ちが、世羅様と同じ類のものなのか、まだ私には、わかりません。けれど・・・」
「ッ・・・」
世羅の腕の中に収まって、鼓動を確かめるようにフェイが胸にもたれかかってくる。
「世羅様の気持ちを、置き去りにはしたくありません。世羅様が苦しい思いをされるのは、イヤなのです。」
「フェイ、私は・・・そなたにしてはいけないことをした。突き放してくれて良いのだ・・・。優しくされる資格などない。」
抱き締めながら言っても説得力には欠ける。
「世羅様の知らないお顔を、たくさん拝見いたしました。私以外、誰にも見せたことのないお顔でしょう?」
何故だが嬉しそうな顔で微笑むフェイに胸中は複雑だった。こちらも素直に微笑み返して良いものかわからなかったからだ。
「それに・・・世羅様が触れると、心臓が壊れそうなほど鳴るんです。」
世羅を責めることもなく、微笑んでくるだけのフェイに、たまらず抱き締めていた手を強くする。
「ほら、ね?」
導かれた胸に手を当てると、確かに彼の鼓動が早く鳴っている気がする。
「フェイ、こんなことをされたら・・・期待してしまう・・・。私をツケ上がらせないでくれ。」
「この命は世羅様のもの。きっと世羅様の気持ちに追いついてみせますから、だからお約束ください。」
「・・・何を、だ?」
「一人で苦しまれず、打ち明けてください。会えぬ日も、せめて御心のそばにいたいのです。世羅様を遠く感じて、寂しかったのですよ?」
穢らわしいと突き放されるつもりでいた。予想外なフェイの言葉に肩の力は抜けて、真っ直ぐと見つめてくる眼差しに、心に巣食っていた霞が晴れていく。
「フェイ・・・どうか今宵のことは叱ってほしい。愛しいと言いながら傷付けたことを罰してくれ。」
「では・・・ライ様に打ち明けてください。身体の奥が少し痛むので・・・。自分ではあらためることができませんから、少々不安なのです・・・。」
「本当にすまない・・・。湯に入っているから余計に痛むのかもしれない。すぐに呼ぼう。」
湯浴みの用意はライにさせているから、彼はとっくに気付いているだろう。彼に知られることが罰になるとは到底思えなかったが、身体が痛むというのだから、そちらを解決する方が先決だ。
フェイを抱き上げて湯から上がり、廊下に控えている者たちに声をかけ、ライを呼び寄せる。
老齢のライは特に顔色を変えるでもなく、静かに入室してきて、フェイの手当てを始めた。
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朝霧とおる