同意も得ず触れていることに、次第に感覚が麻痺していく。罪悪感はとうに失せ、このまま目覚めてくれたらいいとさえ思うようになった。
「ッ・・・」
微かにフェイが喉を鳴らす音を聴いて、握っていた手をさらに強くする。弱々しくも応えるように握り返される手が嬉しくて、フェイの指先に唇を寄せて吸いついた。
「せ、ら・・・さま・・・」
かすれた声に呼ばれて鼓動が跳ねる。フェイに名を呼ばれることがこんなにも特別だと思えるのは、失うかもしれないという恐怖を味わったからに他ならない。
「フェイ。どうか目を開けて、私を見るのだ。」
ゆっくりと開き始めた瞼に口付けを落として、心を震わせながら、フェイがその目に自分の姿を焼き付けてくれることを願う。
「世羅、さま・・・ご無事、だったの、です、ね・・・」
倒れたのは自分だというのに、第一声が世羅を気遣う言葉だったことに衝撃を受け、胸が締めつけられる。
「私はなんともない。無事でないのはそなたの方だ。」
「羅切様は・・・」
「捕えた。そなたをこのように傷付けた者を許しはしない。」
「いけません・・・憎しみは、また憎しみを、生んで、しまいます・・・」
「あやつを捕え、処刑する正当な理由がある。」
「羅切様の母君は、きっと、お悲しみに・・・」
「あやつらのことを、その清らかな口で庇うことはない。」
「世羅様・・・」
哀しそうな目で見つめられ、悪いことをしているように思えてくる。しかし羅切のしでかしたことは、人を殺めようとする立派な犯罪のはずだ。羅切を裁く理由に私情を挟んでいるつもりはない。
「フェイ、あやつの肩を持つのか?」
「え・・・?」
口付けに気付いて目覚めたのだと思っていたのに、なかったことにされていることも無性に腹が立った。
「世羅様・・・?」
急に顔を近付るとフェイが戸惑った顔をする。なかったことにされたくない。意識して困ればいいとさえ思った。
「ッ・・・」
唇を合わせて、その柔らかさに心臓が壊れるのではないかと思うほど早く打つ。フェイの視線がジッと自分を凝視したままだという事実が身体を熱くした。
「フェイ、許してくれるか?」
「・・・。」
「想うことを、そなたに許されたい。」
「世羅、様・・・。」
「私のために命を懸けてくれるというのなら、もういっそ全てを捧げてくれても良いではないか。そなたがいなくなってしまうと思ったら、もう想うだけでは足りぬ。どうしても、許してほしくなった・・・。」
許してほしいと言いながら答えを聞くのは怖い。だから唇を奪って、勢いで上から抱き締めた。
「世羅様の、許してほしいこと・・・」
「・・・そうだ。私の許してほしいこと。」
「それは・・・私が受け取って良いものでございましょうか・・・」
「私が良いと言えば、受け取ってくれるのか?」
「それが世羅様をお守りすることになるのなら・・・」
思わぬ切り返しにフェイを見つめて、フェイにはまだこの想いの正体がわかっていないのだなと確信する。
身も心もほしいと願うこの気持ちは、フェイの純粋さに阻まれて届いていないのだろう。想いが彼のそばを素通りしていることが虚しく、凶悪な芽を呼び覚ましてしまう。
「フェイ、違う。それでは何の意味もない・・・」
「ッ・・・」
愛おしいと思う気持ちに、ただ奪い去りたい衝動が上塗りされていく。
フェイの上に跨って、乱暴に唇を奪えば、フェイが息を呑むのがわかった。彼が戸惑っているのをいいことに、まとっている衣に手をかける。
抱いたらどうなるかなんて、想像もつかない。軽蔑されてしまうだろうか。考えても考えてもわからないことに、終止符を打ってしまおう。
そうすれば、もう悩まずに済む。フェイが自分を拒むなら、それが現実だと受け入れるしかない。受け入れてくれるならば、一生この手から離さず、愛を分かち合えばいい。
気持ちが振り切れると、案外頭は冴えていくものだなと思う。ひとたび行動を起こせば、明確な答えが返ってくる。今まで尻込みしていた自分が馬鹿らしく思えた。
「フェイ。そなたがほしい・・・」
「世羅様・・・ッ・・・」
衣の中を弄りはじめた世羅の手に、フェイが初めて怯えたような顔をする。世羅は二度とフェイの顔が微笑んでくれなくなることを覚悟して、自分の下で震える身体を抱き締めた。
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朝霧とおる