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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

碧眼の鳥23

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碧眼の鳥23

天高く立ち昇る煙を見て、心から慕っていた人の魂が安らかであることを願う。

王都へ入る前、ライが寄越してきた国鳥によってもたらされた訃報は、フェイの胸にぽっかりと穴を開けた。

「理世様は、もうどこにもいらっしゃらないのですね・・・」

王都を出た時、理世の身体からは鼓動が聞こえ、彼の手にはぬくもりがあった。その鼓動が止まり、冷たくなって、呼ぶ声にも応えてくれないのであれば、彼が天に昇っていくのを見送ることしかできない。

ようやく辿り着いた王都の門をくぐると、王宮の埋葬を司る塔から、煙が立ち昇っていた。風に邪魔されることなく一直線に昇っていくさまを、フェイは人気のない王都の一角に場所を移して、呆然と眺め続けていた。

シンビ国では死者を埋葬する時、火葬する。炎で魂を清め、天高く届くように、晴れた日に執り行われるのが一般的だ。

今日も空は快晴だった。清々しい青に、一筋白い煙が立ち昇っていくさまは、美しいとさえ言えた。

王都が泣いている。家々には喪に服したことを示す旗が揺らめき、その光景を見ているだけでも、フェイの心は沈んでいく。

しかしいつまでもうずくまっているフェイの気を引きたいのか、キィが服の袖を口で掴んで引っ張ってきた。嘆いている場合ではないと咎めているようでもある。

「キィ、王宮へ行っても、もう理世様はいないのですよ。天に召されてしまった・・・」

溢れた雫が地面に落ちて、吸い込まれていく。弱った主の様子を見て慌てたように、キィが肩に乗り、頬擦りをしてくる。

「私が泣いても、戻ってらっしゃることはありませんね・・・もう、泣くのはよします。」

袖で強引に涙を拭って、深呼吸をする。心配そうに顔を覗き込んでくる相棒に微笑んでみて、上手く笑えたことに安堵した。

「ともかく、一度、王宮へ行かねばなりませんね。ライ様お一人に全て押し付けてしまっては大変でしょう。」

天帝を看取る薬師は通常一人だが、ライは高齢だ。埋葬の儀式は死者を見送って終わりではなく、葬儀の塔を清めたりする大仕事が残っている。彼一人でやらせてしまったら、今度はライが倒れてしまう。

ようやくフェイは立ち上がり、王宮への道を歩き出す。

「キィ、ライ様にこの文を届けて下さい。」

相棒の足に、今から手伝いに向かう旨を書き記した紙をくくりつけて送り出す。キィはフェイを励ますように、一度頭上で旋回してから、王宮への道を飛んでいった。

 * * *

王宮で出迎えてくれたのはライだけではなかった。世羅ともう一人、知らない女性が彼のそばに立っていた。

そういえば、世羅には近々伴侶となる人が来ると聞いていたが、もしかしたら彼女なのかもしれない。三人に跪いて礼をすると、世羅が座るように促してくる。

「フェイ、兄上のことで苦労をかける。」

「苦労などと・・・。ライ様お一人では大変ですから、心を込めてお手伝いさせていただきます。」

「頼む。」

隣りにいる女性のことが気になって、視線を投げると微笑み返される。なぜだか少し胸が苦しくなり、不自然にならないよう努めながら視線をそらした。

「フェイ、こちらはリリ。兄上を看取ってくれた者だ。」

「理世様の・・・」

世羅の伴侶であるはずの彼女がなぜ理世を看取ったのかと首を傾げていると、世羅が首を横へ振った。

「訳あって、私の妻にはならない。喪が明けたら、里へ帰すのだ。」

「・・・。」

「フェイには彼女を送り出す一行につき、世話をしてやってほしい。」

「承知いたしました。」

話が飲み込めないまま、世羅の言葉に頷く。リリは世羅の伴侶となるべくここへ来て、諸々の事情があり帰されることになった。一番戸惑ったのは、なぜかそのことを自分は嬉しいと感じていたからだ。

「わたくしの勝手を、理世様が汲んでくださったのです。フェイ様、ご迷惑をおかけします。」

「そなた一人の所為ではない。私にも問題はある。」

どうやら世羅とリリが仲違いしている様子でもない。込み入った事情があるのだろうと、納得することにした。

「兄上の弔いからまだ落ち着かぬというのに、今は私の就任式に向けて、宰相たちが慌ただしいのだ。今宵も祝いの品を受け取らなくてはならない。フェイ、気が向いたら部屋へ来てほしい。一人で延々と貢がれるのはうんざりなのだ。」

「皆、世羅様に期待してらっしゃるのですよ。塔の御清めを終えましたら、参りますね。」

相変わらず世羅らしい物言いに、つい笑みをこぼす。王族なのに王族らしからぬ言い草は今にはじまったことではない。変わっていくものもあるが、変わらないものもある。それが嬉しくて、フェイは抱えていた喪失感から、ようやく浮上していった。















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