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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

碧眼の鳥21

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碧眼の鳥21

遠い西の地で世羅が患い、フェイの世話になったらしい。キィが窓を叩き、運んできた報せを見て、理世は頬を緩めた。

さて我が弟は想い人に看病されて、どう気持ちを整理していたのだろう。神妙な面持ちをしながら世話になっている世羅を想像するだけで楽しいと言ったら、弟は怒るだろうか。

自分には未だ湧いたことのない気持ち。辛い思いも経験できることならしたかったというのが正直な心境だった。

きっと世羅はこれから先、自分の知らない気持ちをたくさん抱きながら生きていくのだろう。しかし未来を描くだけの時間を持つ彼が羨ましい。そして、どうせ長く生きるなら、血を分けた弟に幸せになってほしかった。

「リリ、世羅が明後日、ここへ到着するようだ。私の策に乗じてくれる決心はついたか?」

「理世様のおっしゃる通りにいたします。」

「それは良かった。楽しいと言ったら二人には叱られそうだが、死にゆく者の戯れだと許してほしい。」

「理世様」

毎日、この病床にリリ招いて、たわいもないことを語り合い、リリの表情も和らいできていた。しかしその彼女の面持ちが再び、初めて会った日のように固いのは何故だろう。リリの目を見て話を促せば、納得のいく理由だった。

「理世様は、恐ろしくはないのですか?」

死ぬことが、とリリの口から発せられることはなかった。天帝に向かって、それを口にできる者は限られているだろう。

「怖くはない。むしろ、毎日息をして目覚めることが、不思議で新鮮だ。毎朝新しく生まれ、毎晩穏やかな波に抱かれるように眠っていく。その繰り返しだ。」

大したことを話しているわけでもないのに息が上がる。

目覚めるたびに小さく縮み、鼓動が弱くなっていることを感じていた。その感覚は数年前に始まり、もう今では慣れたものだ。命の灯火が少しずつ、しかし確実に消えていこうとしている。

「死ぬことに恐れを抱くのは、まだこの世でやり遂げたいモノがそなたにある証だ。」

「そう、かもしれません・・・」

「別れを告げたかった者に別れを告げ、託すべきモノを託している。私には思い残すことが少ない。見届けることが叶わないのは残念だが、強くなってくれることを信じている。」

「世羅様のことでしょうか?」

「そなたの想像に任せよう。」

理世の心にあったのはフェイのことだった。親を亡くし、薬師に拾われ、天帝になる男から想いを寄せられるという、数奇な運命を辿ってきたフェイ。

このまま世羅が愛を向け続ければ、フェイには過酷な運命が待ち受けている気がした。理世にそう思わせるのは羅切の存在だ。

王族の諍いに巻き込まれれば、薬師といえど無傷では済まないだろう。フェイも剣の腕はたつと聞くが、多勢に無勢になれば話も変わってくる。

何かあった時、味方となってくれる者が多いに越したことはない。群れない生き方をする薬師ゆえに湧いてくる心配事だった。

強く、気高い薬師たち。フェイはいささか王族と、とりわけ世羅との距離が近過ぎる。そのことを良く思わない輩がこの先出てきたとしてもおかしくはない。

フェイ本人は敵を作るような人柄ではないが、世羅を失脚させようと思う者たちには格好の餌食になる。それが羅切と、未だ存命の羅切の母を取り巻く人間模様だった。

「時間があればあっただけ心配事は尽きないものだ。しかし私は、ここを去る準備ができている。あとは肉体が朽ちるのを待つだけだ。薬師たちは、そこかしこが痛まぬか心配してくれるが、私にはとうの昔にその感覚はなくなってしまっている。」

「つらくはないと?」

「唯一つらいことは、こうやってそばにいてくれる人が、笑ってくれないことだ。だから、そなたが私のために悩み、苦しむ必要はない。生きる喜びを存分に味わって、輝いていてほしい。それが私の幸せだ。」

かすれた声を真剣に聞き入っていたリリが、力のない理世の手を握って真剣な面持ちで見つめてくる。

「理世様に・・・お誓いいたします。」

リリの強い眼差しを受け止めて、奮起する気になってくれたらしい若い娘に微笑んで頷く。

「自分と愛する人のために、諦めず、しぶとく足掻いてまいります。ですから、どうか・・・どうか、見守っていてくださいませ。」

「約束しよう。」

リリの顔が一瞬泣きそうに歪んだが、彼女は拳を強く握り締めながら、ついて泣くことはなかった。













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お久しぶりです。
いつもありがとうございます!!

暑い日が続いておりますが、
連日冷房の恩恵に授かり、夕立に怯えつつ、日々過ごしております。
皆さま、いかがお過ごしでしょうか。

現実逃避のために書き始めた「碧眼の鳥」でございますが、
ようやく修正諸々が終わり、全49話、8月31日までお届けすることとなりましたので、
お知らせいたします。

見切り発車でスタート致しましたが、「碧眼の鳥」の正体まで無事辿り着くことが叶いました。
エロ休みとしつつ、結局盛り込んでしまいましたが(笑)、他の作品よりは若干少なめかと。
その反動で9月1日から「ツインタワー」の番外編ががっつりになる予感です。
プロットを書いた段階なので、ちょっと長さはわかりませんが、
また理央くんに走り回っていただこうと思っておりますので、
真さんともども、そちらもお付き合いいただけたら幸いです。
そして「ツインタワー」と連動するかたちで、
「幸せを呼ぶ花」の勝田さんにもちょこっと参加していただく。。。かな?

大変忘れっぽい性分が災いし、「ツインタワー」のプロットを書くために、
1部、2部、すべて読み直すことに・・・。
だいぶ設定が抜けておりました。
辻褄合ってると・・・いいな!!


これから夏本番。
そして厳しいと言われる今年の残暑。
考えるだけでも憂鬱ですが、
お仕事頑張りつつ、気の向くままに更新していきますので、
よろしくお願いいたします。


管理人:朝霧とおる

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