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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

碧眼の鳥19

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碧眼の鳥19

多くを望んだら、きっと失ってしまう。意識されているのだとわかっただけでも、今の世羅には満足だった。

フェイから身体を離し、緩く兆してしまった前を隠すように手早く衣で身を包む。

困ったように顔を赤くするさまが愛しくて、久々にフェイの顔をジッと見つめた。

「フェイ」

「か、片付けて参りますね。」

恥じ入るように俯いて、フェイが逃げるように部屋から出ていく。その後ろ姿を見送ってから、寝台へ大の字に寝転がった。

あんな顔を見たら、癖になってしまいそうだ。からかい続けたら、怒るだろうか。少し考えてみたけれど、フェイが怒っている姿を想像することは難しかった。記憶の中には穏やかな笑顔だけで、世羅に楯突く彼は存在しない。身分の違いだけではないだろう。フェイは感情的になって負の感情をぶつけてくることがない。

献身的だから好きなのかと考えてみたが、それも違うだろう。薬師たちは皆一様に献身的だし、忠実だ。やはりフェイだけが特別で、世羅の心を惹きつける。

「そなたが眩しい・・・」

いつか誰かのものになってしまうのだろうか。薬師は別に婚姻が禁じられているわけではない。旅をし続ける生業ゆえ、既婚者が少ないだけだ。

フェイが誰か一人を想い、大切にする。そんなことを想像するだけで、嫉妬で狂ってしまいそうになる。

同じくらいの熱量で、なんて贅沢なことは言わない。せめて誰のものにもならずに、自分のそばにいてくれたら。

「考えるだけ、虚しい・・・。」

天井を見上げて、深い溜息をつく。フェイが戻ってくるまでの時間が無情に長く感じた。


 * * *


想い人に心揺れる弟を王宮から放ってやり、たった一人残された王宮には、自分にかしずく者しかいなくなった。平坦な時の流れは理世から時間の感覚を奪い、そして命の灯火も奪っていこうとしていた。

そんな折にやってきた来客は、理世にとって少しばかり刺激となり、臥せる病床に来客を呼んでみようかという気まぐれを生んだ。

「名はなんと申す。」

「リリにございます。」

世羅が結婚を望まないのと同じように、この娘も世羅との婚姻を望んでいない。一目、その憂いた瞳を見てわかった。

二人の未来にはじめから暗雲がたちこめている事実を見てみぬふりすることは簡単だが、どうにもお節介な気質が、なにか良い解決策はないかと探してしまう。

「リリ。そなた、私の妻にならぬか?」

「・・・理世様の・・・妻に、ございますか?」

「私を看取って、里へ帰る。王宮から追い出すわけではない。献身的な労を認めて、褒美を取らせよう。そして、自分が思うように生きれば良い。世羅もどうせ望まぬ結婚なのだ。」

我ながら名案だと思い、幾分年下の娘を見つめて返事を待つ。唐突な自覚はあったので、リリが困ったように思案しているさまを、ただ静かに眺める。

どのみち身の回りの世話をするのは王宮仕えの者たちだ。彼女には変わり映えのしない病床の気晴らしに、話し相手にでもなってもらえばいい。

宰相は世羅に献上する気でこの娘を寄越しているはずだが、理世と世羅の二人が口を揃えて、娘は理世にと言えば、誰も表立って文句は言えない。

「しかし、世羅様は・・・」

会ったこともない王族に嫁ぎに来て、いきなり思ってもいない相手から妻になれなどと言われても、困らせるだけなのはわかっている。騙されているのではないかと心配にもなるだろう。

「世羅はもうすぐ遠征から戻る。あやつから、聞くといい。私から話しておこう。」

リリは、宰相がつれてきただけあり、品のある面立ちをした娘だった。すっきりとした鼻筋と、小さくふっくらとした唇。頬も血色が良ければ艶のある雰囲気を出すのだろうが、生憎緊張からか、幾分色を失っていた。

「そこに椅子があるだろう。立っていないで、座りなさい。」

自分は王宮の外を知らない、正真正銘の箱入り。人の良さそうな年下の娘に、胸の詰まるような思いをさせるのが心苦しかった。彼女がどんな風に生きてきたのか聞いてみたい。そんな好奇心で、リリを寝台のそばに座らせた。















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