滑らかに肌を撫でていく感触と、煌びやかな色彩をたたえた織物の数々を一人宝物庫で眺めていく。キィにフェイを奪われて傷心の世羅だったが、この素晴らしい織物たちをどう仕立てようかと考えていれば、幾分気持ちは和らいだ。
リリがフェイに寄越したものは、リリ自らがその目で選んだという。なかなかの審美眼に称賛を贈りたい。背丈があまりないフェイが纏っても彼の愛らしさが損なわれない、それでいて布地の輝きは十分にある。品の良い金糸の刺繍がきっとフェイに映えるだろう。
王都でも指折りの職人に衣を仕立てさせよう。そしてフェイがその身に纏うのを目に収め、一番にこの手で剥ぎ取ろう。織物を手に恍惚とそこまで妄想して、背後に突如現れた気配で我に返る。
せせら笑うように低い声で鳴いたのはキィだった。窓辺で羽を整え、冷たい視線を世羅に浴びせる。
「フェイと散歩をしていたのではないのか?」
世羅は立ち上がり、キィとは微妙な距離を保ちつつ、眼下に広がる王宮の庭に目を向ける。一人気持ち良さそうに土を踏みしめながら歩くフェイがいた。風に乗って微かに歌声が聴こえる。すぐにフェイの声だとわかったので、心地良い彼だけの時間を邪魔するのは趣に欠けると思い、世羅は声を掛けるのをとどまった。
「キィ。今宵は邪魔をさせぬぞ。」
鳥相手に必死になるのも大人げないが、念を押さずにはいられない。世羅を一瞥したキィは、全く相手にする気もないという具合で、羽繕いに勤しんでいる。
「早く着せてやりたい。これなんかはフェイにきっと似合う。そう思うだろう?」
めげずにキィに話かけてみるものの、白々しい視線を寄越しただけで、熱心にくちばしで羽を整えている。
こちらが歩み寄ろうと心を砕いているのに、その態度はなんだと歯軋りをする。こんな姿をフェイには見せられない。いつだって彼の前では寛容でいたいからだ。やはりキィとは上手く折り合いをつけられそうにない。もうこればかりはフェイにも諦めてほしかった。
世羅は立ち上がり、侍女を呼ぶために宝物庫に備え付けられた呼び鈴を鳴らす。間もなく現れた同じ年頃の娘に織物を広げて見せる。
「フェイの衣をあつらえるのに、余分は出るだろうか。」
「半分ほどで足りましょう。」
「あやつにも・・・キィにも何かこしらえるよう、伝えてくれ。何を作るかは任せる。」
「かしこまりました。」
フェイと揃いのなにかを与えてやれば、キィの気も引けるかと思ったが、肝心の彼はそんな事に興味などないという風に、窓辺に立って眼下にいるであろう彼の主を眺めているようだった。
「これでどうやって仲直りせよと・・・。」
せめて今宵も大事にフェイとの時間を過ごそう。彼の健やかな肌に触れると、大概の事はどうでも良くなる。鳥に冷たくあしらわれても、そんな事はフェイを目の前にしたら些細な事だ。
「さて・・・公務に戻るとするか。」
フェイとは夕方に約束をした。約束事はしっかり守り通すのがフェイだから、世羅を想って早く来るという僥倖は期待できない。世羅はひとつ溜息をついて宝物庫を去る。キィがフェイの歌声に合わせてコロコロと楽しそうに鳴き始めた。
-------------------
フェイのターンはちょっと大人な時間を用意したい!
キィにやられっぱなしの世羅が可哀想!
と意気込んでおりますが、きわどい話を果たして昼食時間に控室で書けるものかと・・・(笑)
なんとか、明日、人目をかわして更新したいと思います。
にほんブログ村
B L ♂ U N I O N
Twitter
@AsagiriToru
朝霧とおる
1. 無題
鳥相手に、歩み寄ろうと、こんな涙ぐましい努力を重ねているというのにキィったら「無駄だぜ」的な?w
しかも、フェイの衣を一番に剥ぎ取る楽しい妄想をも見透かしているかのような冷たい視線(笑)
攻防を繰り広げる一人と一羽をよそに、楽しそうに歌を歌ってるフェイ♪想像すると笑いが止まりません(^∇^)
おお!明日は世羅お待ちかねのきわどいシーン(笑)キィにやられっぱなしの世羅w ストレスも、それ以外も溜まってるでしょー(笑)いたいけなフェイの運命やいかに(//艸//)
とおるさん、どうぞ人目をかわしてガンバってくださーい(≧▽≦)♪
Re:無題
たった今、昼休みに入りまして、人目にビクビク怯えながら校正中でございます(笑)
確固たる意志を持つ曲者のキィですが、フェイに対しては大変一途な鳥ですので、世羅も無碍にできず途方に暮れていることだと思います。
それぞれがそれなりに頑固者なので、この三者の関係はそう簡単に崩れることなく、当分の間は攻防戦が続くと思います。
季節感を大切にしているので、年末年始、何かお届けできたら!と思っています。
私もこの二人と一羽、書くのが大変楽しいです。
更新まで、しばしお待ちくださいませ。
いつもコメントありがとうございます!!