背後から飛びついた途端、直樹が軽く壁に衝突する。思い切り顔面から突っ込んだので、真っ青になって直樹の顔を恐る恐る覗き込む。しかし彼は笑うだけで怒ってはいなかった。
「ご、ご、ごめんね、ナオ……。」
「大丈夫です。」
「……ホント?」
「そんな顔しないでください。ホントに大丈夫です。」
直樹が微笑むのを見て、心臓がドクッと大量の血液を送り込む。その音が皮膚を伝って聴覚に直接訴えてくるように煩く響いた。心なしか息も上がってきた気がして、頭の隅の方で自分が直樹にときめいているらしいことを感じる。
「春哉さんのこういうところ、好きですよ。」
「好き?」
「部屋の中で話しましょう?」
「……。」
手を引かれて微笑まれ、はぐらかされたような気がしてしまう。自分の好きと同じかどうか確かめたくて、直樹の正面に回り込んで立ち塞がる。ドアは二人を部屋へ招き入れた後、すぐに直樹の背後で閉じた。
「ナオが意味深なこと言うから、凄く気になって、ちっとも勉強できなかった!」
単純だと竜崎や柳にはよく言われるけれど、直樹に好きだと言われて、深く意味も考えないままその気になっているから二人の指摘は正しい。もうすっかり舞い上がって、急に込み上げてきた昂揚感を必死に隠しながら直樹に食ってかかってみる。
「意味深なことなんて言いましたっけ?」
「校庭で言った!」
口を尖らせる春哉を見て、直樹が笑う。
「春哉さん、顔赤い。」
「そういうのはいいから、直樹の気持ち、知りたい!」
真剣なのに笑われてしまうのはいつもの事なのだが、直樹にそれをやられると、居ても立ってもいられなくなり、ちゃんと答えがほしくなる。人にどう思われていても、自分は自分でしかいられないけれど、直樹の目に映る自分の姿は気になって、春哉を落ち着かない気分にさせるのだ。
「素敵だなぁ、って思います。いつも楽しそうで。それと、時々可愛い。」
「それって、好きってこと?」
「今はこういう風にしたいです。」
煮え切らない言葉の代わりに直樹の手がスッと伸びてきて、春哉の腕を掴む。直樹の胸に抱き寄せられるまで一秒もなかった。
「ッ!?」
「春哉さんといると、楽しい。一緒にいると、いつの間にか笑えるし、春哉さんに会えてよかった。」
会えてよかったと思うのは春哉も同じだ。だから直樹が同じ気持ちでいてくれたことが嬉しい。胸の高鳴りが己の歓喜を伝えてきて、心臓は煩く鳴った。
直樹の首筋に顔を埋めて息を思い切り吸い込むが、ドキドキし過ぎて上手く吐き出せない。酸欠なのか過呼吸なのかわからないけれど、心なしか息が苦しい。どうにか落ち着こうと試みるのに、肩だけで浅く速い呼吸を繰り返してしまう。
次第に身体が宙に浮いていくような感覚になり、どうにも足元がおぼつかなくなる。急激に意識が遠退いていくのを感じて、春哉は必死に直樹に抱きついた。
おかしい。どうしたのだろう。
「春哉さん?」
「ッ……」
呼び掛けに答えようとして、声が絞り出せないことに気付く。口がパクパクと開くだけだ。
「春哉さんッ!?」
強く抱き締め返され、幸せな浮遊感に包まれる。同時に全身から力が抜けて、あっという間にブラックアウトした。
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朝霧とおる