直樹の心配をよそに、つい二十分ほど前に過呼吸で倒れた春哉は、今ではけろりとしている。
「びっくりしたぁー。」
それはこちらのセリフだ。目の前で動かなくなるものだから、冷や汗なんてものではない。
呑気に倒れた時の再現をして笑う春哉の横で、直樹は肩を落とした。よほど嬉しかったらしく、興奮が過ぎて過呼吸に陥ったらしいが、もう少し心臓に優しい喜び方をしてほしいものだ。
腕の中で急に呼吸を早くし、苦しそうにし始めたと思ったら、意識を手放してしまった。何事かと思って、大慌てで保健室に担いで駆け込んだのだ。
「小塚、何がそんな嬉しかったんだ。」
「秘密!」
「それじゃ、診察にならないだろ。」
「ダメぇー。デリケートな事だから、先生には言えないの!」
「まったく……。」
川口がベッドのそばで呆れたように肩眉を上げる。睨みつけても嬉しさに悶えている春哉にその眼力は通用しない。二人の様子をハラハラ見守っていた直樹だったが、先に折れたのは川口の方だった。
「帰っていいぞ。」
「はぁーい!」
またパッタリ倒れるのではないかと気が気ではなかったが、軽やかな身のこなしでベッドから春哉が飛び降りる。
「春哉さん、ホントに大丈夫ですか?」
「もうピンピンしてる!」
「小塚、暫く安静に。」
ピョコピョコその場で跳んでみせた春哉に対して、背後から川口が低い声で釘を刺してくる。
「芝山、小塚が騒ぎ出したら連れて来い。」
「は、はい……。」
「騒いでないよ。ナオにうっとりしてただけ!」
「うっとり?」
「あッ、先生は知らなくていいの!!」
「まったく、何なんだ……。」
奇妙な生き物でも見るような川口の視線に、直樹はちらりと春哉を盗み見る。再び彼の高揚具合がいつピークを迎えてもおかしくないような状況だ。軽くスキップを踏み始めた春哉を見て、直樹は慌てて彼の肩を抑えて制止させる。
「ナオ?」
「あ、安静にした方がいいですよ。」
一瞬不服そうな顔をするものの、春哉が顔を寄せて小声で耳打ちをしてくる。
「後でちゅーしてくれる?」
「え……。」
直樹が春哉の言葉に固まっている一方で、春哉はすっかりその気になって満面の笑みを向けてくる。直樹は大股で意気揚々と歩き出した春哉の背中を赤面しながら追った。
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朝霧とおる