ソワソワと落ち着かないのを咎められるのは初めてではない。談話室で足踏みをして待っているのは直樹のことだ。彼は今食堂にいて、春哉がテーブルへ置き去りにしてきた納豆を食べているに違いないのだ。
「春哉」
「ん?」
「鬱陶しい。」
冷たい声で断罪してきたのは柳だ。
「部屋で待ってたら?」
「だって、待ちきれない。」
「芝山?」
「うん!」
補講を早く切り上げることができれば陸上部の練習に戻ることが可能だったのだが、やってもやってもプリントは埋まらず、先生の方が春哉よりげっそりしていたくらいだ。直樹が意味深な言葉を残すものだから、気になって集中できなかった。
「朝は泣きそうだったのに、もう開き直ってんのか。」
呆れたように一瞥してきた竜崎にニヤリと笑い返す。怪訝そうに竜崎が片眉を上げたので、気味が悪いくらいの上機嫌さを感じ取ったのだろう。春哉は緩んだ頬を締め直せずにいると、竜崎が気に食わないと言わんばかりに春哉の頬をつねってくる。
「いーッたい!」
「なに、ニヤニヤしてんだよ。」
「別にいいじゃん!」
「単純だなぁ、おまえ。今度から芝山吊るしとけば、何でもやりそうだな。」
「うぅー!」
直樹を馬のニンジン扱いするのはいただけない。頬を膨らませて身を乗り出し、意地悪く笑う竜崎へ抗議する。
「じゃあ、今度我儘言うようなら、芝山を人質にとろうか。」
「そ、そういうの、卑怯ッ!」
竜崎より柳の方が物騒だし、彼なら本当にやりかねない。怒らせると柳の方が断然怖いことを自分は経験で知っている。
「やなぎん、ホント、ヤダぁー!!」
「お、芝山。」
「え!?」
竜崎の上げた声で談話室の入り口を振り返る。すると横切っていく直樹の姿が目に飛び込んできた。
「あ、あ、ナオ、待ってー!」
「騒がしいやつだな。」
「懲りないよね。」
駆け出して声を上げるものの、一年生の集団に呑み込まれた直樹は、春哉に気付かず通り過ぎていく。直樹の名を連呼して走る春哉に、談話室でたむろする数人が興味津々な視線を投げてきた。しかし春哉はそんな視線に構うことなく、バタバタと騒々しく直樹を追い掛けた。
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朝霧とおる