防音が完全ではない室内では、隆一がシャワーに打たれる音が微かに耳へ届く。沈み込むベッドの中で悶々とした気分を止められないのは、つい今しがたシャワーを浴びながら耽っていた行為に罪悪感があったからだ。
「抜くんじゃなかった……。」
春哉が入った後だったから、油断していた。匂いが残っていたらどうしようと、今更焦っても仕方のないことで頭を抱える。
無意識に遠巻きにしていた隆一に近付いたことで、一つ光の中で確かな形を成した想いがある。他のクラスメイトには抱かない感情を隆一には抱いて、どうやら自分は彼のことが好きらしい。
友人としか見ていない相手を思い描いて自慰なんかしない。そのくらいはちゃんとわかっている。今日初めて隆一をおかずにしてしまった。罪悪感に押し潰されそうになる一方で、シャワーの音を耳に拾っては安易に隆一の裸体を頭に浮かべてしまう。
「あの、バカ……。」
こっちの気も知らないで、余計なことをしてくれたものだ。ただでさえ隆一の顔色が気になるというのに、変な態度を取ってしまったらどうしようかと気が気ではない。冷静さはとっくに失っており、枕を抱き締めて辛うじて逃げ出したい気分を堪えている。
「ッ!!」
ドアの開く音を聞いて、尋常ではないほど心臓が跳ねる。咄嗟に背を向けたが、隆一の気配は光の背後でぴたりと止まった。
「勝手にタオル使ったよ?」
「あ、ああ。」
不審に思われたくなくて振り向いたが、剥き出しの上半身が目に飛び込んできて、つい赤面してしまう。
「ッ、服、着ろよ……。」
はっきりと欲情が湧き出す身体に焦って、それでも声のボリュームだけは辛うじて抑えた。フラフラと素っ裸で歩き回る春哉の事も同じ言葉で叱るけど、隆一に向けるそれは意味合いが全く違う。下着を身に着けていたことだけが幸いだ。
「出たばっかりって、暑くない?」
「暑いけど、身体冷やすだろ。」
ちょっと怒ったような口調で言うと、隆一が目を微かに見開いた後、微笑んでくる。あろうことか髪も碌に拭かず、光の隣りに寝転がってきた。
「ッ!?」
声にならない悲鳴を心の中で上げて、全身で狼狽えていると、隆一が声に出さないまま笑ってくる。
「ねぇ、光。」
「な、なんだよ……。」
「そんな意識されるとさ、誘われてるのかなぁって、勘違いするよ?」
微笑みながら迫られても咄嗟に押し返せなかったのは、先を期待してしまう自分がいたからだ。関係が拗れてしまうかもしれないだなんて深く考える余裕はない。
「ちょっと息抜きさせて。」
「ッ……。」
耳を彼の唇で食まれて、身体がカッと熱くなる。光はわけもわからないまま、隆一の流れるような手の動きを、呆然と見つめることしかできなかった。
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朝霧とおる