何だかんだ可愛がられて調子に乗っている騒々しいおバカさんだと思っていたのに、案外聡いものだと安直に感心して良いものか。妙な気の使われ方をしたので、逆に心配だ。小塚春哉といえばトラブルメーカーとしてこの泉ノ森で名を馳せているので、隆一の心配は大袈裟ではないはず。
「来たよー!」
「……。」
本当に部屋を交換する気らしく、春哉は枕と着替えを持参して隆一の前でヘラヘラ笑って立っている。フットワークの軽さが彼の強みであり欠点だ。思い付きばかりの言動が周囲を振り回しており、主にその被害は光が被っている。無言で睨んでみるものの全く効果はなく、こちらの意向は完全にスルーして部屋へ突入してくる。
「……光はそれでいいって?」
「ぴかりん?」
光にふざけた名を与えて、あっという間に広めてしまった影響力には呆れを通り越し、尊敬すらしている。口が堅いとは言い難いので、春哉にこの感情が筒抜けになることほど、この学園にいて怖い事はない。
「やなぎんに迷惑かけないでね、って言われた。」
「それだけ?」
「うん!」
断りもなくベッドへ飛び込んで、勝手に寛ぐ体勢に入っている春哉は、もう隆一の言葉を真面目に聞く気はなさそうだった。幸か不幸か隆一と同室の下級生は春哉とクラスメイト。隆一という見張り役がいなくなる予感に満更でもない様子だ。
もうここは腹を括って光の部屋へ向かおうと着替えをまとめる。つい数十秒前まで綺麗に整っていた隆一のベッドは、すでにぐちゃぐちゃだったが、小言を言うのもバカらしくて黙って部屋を出る。
気に食わないのに、思わぬ機会に喜んでいるのを認めたくない。しかし光の部屋に着いた頃には、ちょっとしたハプニングくらい起きてくれたらいいのにと願う自分がいた。
「お邪魔します。」
「ちょッ、あいつ、いつの間に!」
「気にしてないよ。二人で楽しそうだったし。たまの息抜きにいいんじゃない?」
「……ホント、悪い。」
焦ったり、緊張してくれたり、たったそれだけでも胸が締め付けられるくらいには光のことが好きだ。でも光に明確な何かを求めているわけではない。遠くで眺めているだけだった日常から、ほんの少し距離が近くなっただけのことで浮かれていたら身が持たない。
「お風呂は?」
下はジャージで、上はタンクトップ。タオルを首からかけて、まさにシャワーを浴びたばかりの出で立ちだ。
「今、上がった。春哉のやつ、俺が風呂に入ってる隙に行きやがった。」
「……。」
顔を顰めてみせながら、光は春哉のことを可愛がっている。言葉の端々からそれを感じ取ってしまって、面白くない。けれどそう思ってしまう狭量な自分を知られたくはないのだから、プライドの高さが少し苦々しい。
ベッドに腰掛けていた光からは距離を取って、窓側の椅子に座る。上気した肌は目のやり場に困るけど、滅多にない機会だから、瞳は彼の首筋に釘付けだった。
「コレ、あの子?」
「ああ。言っても言っても片付けねぇんだよ。」
「大変だね。」
「怪我したって言ってんのに、コケてぶつかってくるし。」
気に食わないと思いながらも、彼の話題を振れば緊張が解けることはわかっているから、どうしてもカードを切ってしまう。それに隆一に向けてくる好意と春哉を可愛がる感情に明確な差があることを、心の中で確認しては安堵しているのだ。
「隆一、風呂まだ?」
「うん。借りるね。」
「ああ。俺の後で悪いけど……。」
何を謝ることがあるのだろうと思うけど、何故かと無粋な問いかけはしなかった。意識している相手とシャワールームを共有するって、結構居た堪れない胸中であることは理解できる。再び光から強く意識されている気配を感じ取って、隆一は頬を緩める。彼の矜持が保てるうちにと、椅子から立ち上がってシャワールームへと向かった。
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朝霧とおる